白鶴酒造株式会社の3号工場・工場長の伴さんに教えてもらう 【2/5】

「生物が介在するということは、偶然性が入りますよ」

湯川:伴さんは、麹とか、発酵しているものは好きですか? お仕事では製造もされている?

伴:そうですね。今は工場長なんですけど、昔の杜氏のような役割ですかね。監督のような役割です。

湯川:今、何を監督している感じですか?

伴:野球に例えると…作戦と指示を与えて、勝つゲームをすることですかね。

湯川:何に勝つんでしょうか?

伴:いい酒を造ることでしょうね。

湯川:白鶴さんて、日本で一番大きい会社でしょ。ジャイアンツのように金に物を言わせて設備もすごいし、凄い酒ができてあたりまえじゃん!と、思われているという感じですか?

伴:いや、逆にね。我々大手メーカーは、いい酒をつくる力は持っていないと思われているんでね。

湯川:あ、確かに!機械が作っているイメージがあるかも…

伴:でもね、吟醸については、ほとんど機械を使っていないんですよ。使っているといえば、ボイラーくらい。

湯川:さすがに火をおこすところから、手でやれ!とは言わないです(笑)。

伴:そう、基本すべて手作りなんですよ。

湯川:白鶴さんのような大きな企業が、お酒をまっとうにつくるチカラがあるって、杜氏さん、職人さんのチカラがあるって、あんまりイメージなかったかもしれないです。
いいお酒をつくる「酒造りの極意」とかってありますか?

伴:酒造りの要素は、東京ディズニーランドなんですよ。「T・D・L」ね。

湯川:え? ちょっと待って。酒造りの要素は「東京ディズニーランド?

伴:そう、「T・D・L」。『T』はね、テクニック・酒造技術ですね。このテクニックを持っている人間が一定数いないと、いい酒ができない。『D』は、酒造に関するデータ分析をすることですね。最後の『L』は、LOVEじゃなくて…LUCK!運がないといいものはできない。

湯川:LUCK? 運?

伴:やっぱりね、運がないといいものができない。同じようにやっていても、同じものはできないんですよ。3回やっても、3回同じ酒はできない。

湯川:でも何で差が出るの? だって、管理も徹底して、きちんとされているでしょ?

伴:どんなに管理をしても、本当に微妙な差で、味も香りも変わってくるんですよ。

湯川:え…意味がわからない…

伴:だって、機械が作っているわけではないのでね、偶然性が入ってくる。

湯川:原材料の水とか米とか?

伴:当たり前な話だと思うんだけど、AさんとBさんの夫婦に3人子どもがいても、まったく同じ子どもはいないでしょ?そういうことなんです。まったく同じものができるというのは、機械とか非生物的な世界。生物が介在するということは、偶然性が入りますよ。

湯川:たしかに…どこまでも生き物の話なの?麹が生き物だから?

伴:酒造りと言っているけれど、われわれが、酒を造っているわけではないんですよ。造るのは、酵母と麹が作る。彼らが、というか、奴らが(笑)。我々は直接酒造りをしているわけではないんですよ。

湯川:じゃぁマネジメントみたいな感じ? 麹や酵母が活躍できる環境を整えるという感じなんですね。

伴:そうですね。そんな感じです。話は少し変わりますが、お米を食べながら去年の米と今年の米が味が違うとかわかります?

湯川:え?わからない、わからない!

伴:水も、産地の違いで味を比べても分からないでしょ? でもね、それが日本酒になると、米、水の違いや産地で、味が変わる。同じ産地の品種でも、昨年と今年の米では、日本酒のできが違う。味が変わるんです。

湯川:へぇ…!

伴:原材料の差が、品質や味に出てくる。これが、日本酒の非常におもしろいところなんですね。昨年の米よりも、今年の米の方が酒造りには適していたとか、そういうことがあるんです。

湯川:あ、そういえば、日本酒の原材料って、無味無臭ですねぇ。

伴:そうそう。水は、もちろん無味無臭ですし、米も精米していけば、どんどんと無味無臭に近づいていきます。無味無臭なものから、あの味や香りが出てくる。これは、日本酒の発酵技術によるものですね。

湯川:(ワインのブドウ、ビールの麦芽のように)原材料に依存するのであれば、品質も安定するでしょ。でも、そんなことでもないんだ。

伴:そう。日本酒は、原材料の味に頼ることなく、人の技、発酵技術だけでこの味や香りを出していく。米や水はそれ自体の味ではなく、発酵の条件によって日本酒の味に影響を及ぼすんです。人の発酵技術で原料にない味を造形していく。日本の発酵技術は、世界最高水準だと思ってます…。わはははは。

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