ピソコモド・千住社長に教えてもらう 【5/5】

「スリッパの裏の汚さを畳に伝えたらだめって感じしますよね」

湯川:畳表の裏に、誰かの名前が書いてありますね。へそくりですか?

千住:これは、い草の生産者さんです。い草を作って、自分で織っている方です。

湯川:い草を作った人が、自分で織るんですか?すごい。トマト作った人がケチャップ作るようなものでしょ?別の技術のはずじゃないですか。ナニナニさんが作ったかぼちゃとかいうけど、ナニナニさんが作った畳表ってことですか!

(にしごや:畳表って、職人さんの作る、一点ものなんだ!)

湯川:なんの違いが出るんですか、機械で編むでしょ、職人さんで違いが出ますか?

印で生産者の名前が入っている

千住:まず、い草の質が違うんです。い草は植物ですから長いのも短いのもあるけれど、長い方が良いい草です。畳って、い草の真ん中、緑色のところを使います。根っことか、頭の方は日焼けしてて、あんまりきれいじゃない。そのためには、長さのあるい草を使わないと、きれいなのは作れない。日に焼けたい草や短いい草などを、どれだけ丁寧にとって、どれだけきれいない草だけで織るか、それで違いが出ます。

湯川:そんなに丁寧な仕事してるんだ〜。噂によると、い草農家さんって減ってるんでしょう?
需要が減ったからですか?あるいはい草作りが嫌になっちゃった?

千住:日本の農業全体が抱える問題でもありますが、農業人口が減っています。い草農家も農家なので、後継者問題があります。自分の息子を継がせない農家、継ぎたくないって息子さんが多いんです。お嫁さんが来なくて、独身でやっているい草農家も多いです。畳が減って、い草がそこまで儲からなくなって、トマトとかいちごなど他の作物に転換する人も多いです。労働環境もありますけどね。たとえば、い草を泥染めする時に、すごい粉が出るとか。

湯川:い草を作る人も減ってるし、畳を使う人も減ってるんですね。
千住:和室が減って畳が減っているスピードと、い草農家が減っているスピードがほぼ一緒です。

いいい草と悪いい草を選別しているところ
畳表を織る機械。い草農家が織っているなんて

湯川:私は7年前にスペインから日本に戻ってきたんですが、日本に戻ったら畳が減ってて、みんなフローリングになってるんです。

千住:畳の需要が減ったのは、住宅の洋風化が大きな理由ですね。昔は一戸建てが多くて、ほとんどが和室でした。当時はフローリングとは呼ばず、板の間って言っていましたね。

湯川:そうだ!板の間って言ってた!板の間は畳よりランク下。

千住:そう、ランク下、いつの間にかフローリングってかっこよくなっちゃいました。今はマンションとかアパートが増えてきて、畳からフローリングに変わっているんです。昔は一人暮らしは苦労のイメージだったけれど、今は、ちょっとおしゃれな感じ。

湯川:たしかに、トレンディドラマとかで、江口洋介は和室にいなかった。

千住:畳は古臭い、フローリングの方が新しい、かっこいいと変わったんです。

湯川:そういえば、サザエさんちってオール和室だった。ちびまるこちゃんも、みんなが集まるところは畳。そっか、あの頃、お父さんはまだ一番えらくて、そのお父さんがいるのは畳の間。板の間じゃなくって。秀吉とか貧乏で育った人は、たしか、出世した時に畳かゴザかなんかで喜んでたとか。昔は畳はぜいたく品だったんですね。今はずいぶんイメージが変わったけど。

千住:ええ、昔は畳はぜいたく品だったんです。お城でも基本的には全部板の間、殿様がいるところは畳、もしくは畳を使った座る場所がありましたね。

湯川:みんな、畳がいいって思っていたんですね。最後に、もしもこの世から畳がなくなったら、なくなるものってなんでしょう?

千住:この世から畳はなくならないと思います。でも、もしも、なくなったら…日本文化がなくなると思います。日本人の美徳、日本人の持つ精神性。我々は今、靴の生活をしていて、玄関で靴を脱いでスリッパに履き替えますよね。リビングはスリッパでもいいんだけど、じゃあ和室に行った時に、スリッパで入りますか? スリッパで和室には入らないじゃないですか。スリッパの裏の汚さを畳に伝えたらだめって感じしますよね。それくらい畳は、日本人にとってすごく特別な空間、清潔な場所なんだって思います。もし畳がなくなっちゃったら、産まれてきた子供たちがそういう感覚がなくて、大人になった時に平気でスリッパで畳の部屋に入っちゃう。

湯川:外国の子ですよね。靴で家に上がるのと同じですもんね。

千住:そうなったら日本人の文化とか精神性ってなくなっちゃうんじゃないかって思います。
そして、日本の伝統がなくなると思います。華道、茶道、香道、柔道、書道…日本文化で「道」を究める芸事の多くは畳で行われていますので。そういったものが、なくなっちゃいますよ。畳がなくなると。

(にしごや:たしかに…正座をして、姿勢を正して、精神を集中したり、礼儀作法を学んだり、そういった「道」って、みんな畳の上のような気がする。そろばん弾いたり、かるた、百人一首、書初め、そういうのもなくなるかもしれない。私にとって畳って、身近だけどあまり目を向けてこなかったもの。その畳の、奥深い楽しみ方とか、職人さんの心意気とか、オーダーメイドだっていうこと、日本人の、凛としたたたずまいを作ってきたのは、畳の存在が大きいんじゃないかって、今、思う)

千住雄一さん(株式会社ピソコモド代表取締役社長)/1967年佐賀市生まれ。日本人が平安時代から培ってきた畳の文化を残したいとピソコモドを設立。1年のほとんどが出張のため、その土地のお酒を呑むこと、その町を夜に散歩することが密かな楽しみ。口癖は「畳で世界平和に貢献」。「畳の上でイスラエル首相とPLO議長があぐらをかいて胸襟を開いてお茶を飲む…これができたら最高です」。

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