特別企画

酒米・白鶴錦の稲わらで畳をつくる。

文:山本しのぶ

東京・銀座にある白鶴ビル。
その屋上で2007年から、酒米である白鶴錦を育てる「白鶴銀座天空農園」という屋上緑化プロジェクトが続いています。

今回、2020年秋に収穫された白鶴錦の稲わらを使って、神戸にある白鶴酒造資料館に展示する置き畳を作るプロジェクトが実施されました。

日本酒と畳が出会うとき、そこにどんな思いが生まれたのか。

1.稲を育てた白鶴銀座天空農園の山田さん・福本さんと白鶴酒造広報の大岡さん
2.稲わらで畳床(畳の芯材)を製作した須賀利三商店の須賀前社長
3.畳を製作した岡田畳本店の岡田社長
そして4.プロジェクト全般にご協力いただいた前田畳製作所の前田社長

一枚の畳にまつわるストーリーをみなさんにお聞きしました。

【酒米・白鶴錦について】
日本酒造りに適した品種のことを、「酒米(さかまい)」または「酒造好適米」といいます。酒米の中で最も優れた品種として知られる兵庫県産「山田錦(やまだにしき)」に劣らない酒米を作ろうと1995年から8年の期間をかけて開発されたのが「白鶴錦」です。

白鶴酒造HPより抜粋)
【畳について】
畳は大きく3つの部分でできています。1つめは、表面のいぐさの部分で「畳表(たたみおもて)」と呼びます。現在では、いぐさの他に、樹脂や紙でできたものも多く流通しています。2つめの、中の芯材は、「畳床(たたみどこ)」と言います。伝統的にはわらを何重にも重ねて作りますが、現在ではすべてわらでできた畳床は少なくなっており、多くは建材が使われています。3つめは両端の2本の「ヘリ」。綿や麻でできています。

(画像:DEMOくらし・畳より)

役立てられて、大事に扱っていただけてありがたいです。

1.白鶴錦を栽培:白鶴銀座天空農園 山田さん・福本さん、白鶴酒造広報大岡さん

2007年に白鶴錦が酒米として登録されたタイミングで、日本の中心である東京・銀座から日本酒文化を発信したいとの思いで「白鶴銀座天空農園」プロジェクトが始まりました。初めはこんな環境じゃ育たないんじゃないかと言われていたんですが、今では毎年お酒に仕込まれて限定販売されるくらいになっています。実際にできた畳を見た時は、うちで獲れた稲わらが畳の土台として、畳を支えているというのが嬉しかったです。踏み心地がしっかりしていてずしんと重みを感じました。思いを込めて作っていただいて、大事に扱っていただけてありがたかったです。ビルの屋上でできた白鶴錦が、お酒になるだけでなく、畳としても活用されたというのは嬉しいですね。 (インタビュー全文はこちらから)

刈り取られた後に屋上で稲架(はさ)かけして乾燥した稲わらは脱穀の後に岡田さんに手渡されました。

どなたが乗っても畳自体のあたたかさを感じていただけるようなものに。

2.白鶴錦を使って畳床を製作:須賀利三商店・須賀茂春前社長

毎日100枚くらいの畳床を作っていますが、すべて稲わらのものはそのうちの1割くらい。わらを何層にも重ねて、間に細かくしたわらを入れて圧縮して作ります。32kgのわらで1畳分。酒米で畳床を作るというのを聞いた時は「面白そうだな」と思い、どんなものができるか楽しみながらやりました。柔らかい稲だったので、多めに入れて硬さを確保しています。乾燥もうまくいっていて、すぐに作業に入れました。どなたが乗っても、畳自体がもつあたたかさが伝わればなと思っています。ただ硬いだけではない、畳の持つ感触を味わっていただきたいですね。 (インタビュー全文はこちらから)

運び込まれた稲わらは全部で43.5kg。一畳分の畳床が丁寧に作られました。

日本酒と畳。日常的でもあり、神仏に近づくところにあるもの。

3.白鶴錦の畳床を使って畳を製作:岡田畳本店・岡田暁夫社長

普段作っている畳って97%は機械縫いなんです。でも、今回は、すべて一針一針手縫いしています。昔ながらのやり方というのもありますし、通常は畳の側面に糸が見えるのですが、手縫いだと側面にかからないように細工ができるんです。日本酒に関わる畳ということで、神前に供えるようなイメージで有職畳(宮中に由来し、神社仏閣で特別な調度品として使われる畳)の方法で作っています。ただ、そういう儀礼的な部分も持ちながらも、来られた方にどんどん踏んでいただいて昔ながらの本畳の心地よさを味わっていただけたらと思っています。近寄り難いものではなくて普通にごろっとしていただいて、畳を通して見えない会話をするような、何かしら感じていただけるものがあればと思っています。 (インタビュー全文はこちらから)

一針一針手縫いで作られた畳。手作業だからこそできることがあります。

「平坦じゃない」からこそ価値がある。

4.プロジェクト協力:前田畳製作所:前田敏康社長

今回のプロジェクトには西宮にある前田畳製作所の前田社長にもご協力をいただきました。銀座から白鶴酒造資料館に届いた畳を開封する際には、前田社長にも立ち会っていただき、この畳の味わい方を教えていただきました。

1)どこにも縫い糸が見えない畳。ぱっと見て、何も違和感を感じない。でも、それはあえて見えないように縫っているからこそ。「一畳で完結するような畳。置いた時にどこから見ても糸が見えないように作ってあります」。「手縫いの方が締まるんですよ、機械縫いよりも。一回縫った糸をもう一回引っ張って締め直したり、木槌で叩いてまた緩めて引っ張ったり」(前田さん)。

2)裏はシュロのシートが貼ってある。これは畳床職人さんの心意気。「シュロがついてるのは、最高級の畳。通常はわらが見えていたり、ビニールのシートをつけたり。シュロは湿気を吸う効果があるんですよね。だから床下の湿気を抑えてくれる」(前田さん)。

3)へりは高麗縁(こうらいべり)という伝統的な柄。「綿でできてます。水で湿らせて、伸ばしたり縮めたりして端が合うようにしてあります」(前田さん)。


4)中身がわらなのに角がしっかり立っている。「頭板(かしらいた)という幅3センチくらいのヒノキの板がこの短い辺の上面の端に入れてあるんです。それで角を出している。かつ、それで上面に段差が出ないように、い草を詰めて調整して」。「この硬さはわらが詰まっているからこその硬さ。でも、膝をつけたり足で踏んだりすると分かるんですけど、柔らかいんです。みちっと詰まっていて、かつ柔らかい。フローリングとは違う凹凸と自然な柔らかさがある。だから畳だと長く正座できるんですよ。平坦じゃないからこその価値が畳にはあると思うんです」(前田さん)。

執筆者プロフィール

山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
夫・息子と三人暮らし。作業療法士の資格を持ち、その人らしい暮らしや生き方をサポートをしていきたいと考えている。普段はのんびりしているが、気になることにはどんどん突っ込んでいく。食べることや手仕事をすること、旅行に行くことが好き。