圧倒的部屋感、ベランダにあらわる

文:大森ちはる

置きたいのは、ウッドデッキじゃ、ないんだ。

春がきた。桜が満開になった4月初めの土曜日、我が家のベランダに畳がやって来た。未だかつて、ベランダに畳を敷いている人に出会ったことはない。Instagramで、Pinterestで、google画像検索で、そんなお宅を拝見したこともない。それでも私が試みたかった、3つの理由。それは……

理由① 吾輩はズボラなり
ベランダといえば、定番はウッドデッキだと思う。もしくは、ウッドパネル、芝生パネル。これまで全部検討して、どれも設置に至らなかった。理由のひとつは、手入れの手間。我が家のベランダは公園に面していて、春は桜の花びら、秋は落ち葉の襲来に遭う。砂埃も日々舞ってくる。それらがウッドデッキやパネルの隙間から床面に落ちて、放っておけば溜まる一方。掃き出すには、都度都度よいこらしょっとめくらないといけない。しかも、聞いたところによると、薄暗さと湿気を兼ね備えたパネルの裏は、某Gの温床になりやすいそうじゃないか。いや、それは、ちょっと、ご勘弁願いたい。

理由② 「和」な佇まいが、好き
20代半ばで挙げた結婚式の引き出物は、江戸切子のグラスにした。リビングには、民芸箪笥のテレビボードと階段箪笥を置いている。建売住宅なので、床材はよくあるクリーム色の合板フローリングで、こだわりの畳でも無垢材でもないのだが、そんなことはお構いなし。もし今後万が一、家を立て替えることになったら、そのときはぜひ、坪庭をつくって石庭にしたい。砂紋、引きたい。

結局、手入れの面倒くささを覆すほど、ウッドデッキや芝生パネルの上で過ごすポップな歓びをこと細かに想像できなかったのだ。せっかく築くなら、「洋」じゃない。たとえ石庭は築けなくても、あの静けさが欲しい。

理由③ 世の中には、濡れてもOKな畳があった
掃除のしやすさ、佇まい。そんなベランダを構えたくて、夜な夜なインターネット検索していたときに知ったのが、「お風呂畳」なる商品だった。お風呂に敷くものとして開発された畳。畳さながらの質感ながら(もちろん別素材)、濡れてもOK、汚れたら洗えるらしい。閃いた。これ、我が家のベランダにも置けるんじゃないか。いや、置きたい。ここで食べたり、飲んだり、寝転んだり、本を読んだり、仕事したり、したい。

我が家は、玄関開けたら2秒で公園。公園にはクスノキや桜の木が植わっていて、リビングの掃き出し窓のちょうど前面に、木々を臨むことができる。掃き出し窓の向こうに続く、奥行1mちょっとのベランダ。そのベランダに、畳を敷きたい。もうすぐ入居10周年。お花見の、夕涼みの、春から秋にかけて暮らしの特等席になるベランダに、ようやく据わるものが現れた。

「畳屋としても未知数だけど、ぜひ実験してみてください!」(畳屋さん)

いつもお世話になっている知り合いの畳屋さんに、お風呂畳をベランダに敷きたい気持ちをぶつけてみた。水場とはいえ屋内用の畳をオール屋外で使うことについて、畳視点の見解を伺いたかった。前のめりの姿勢の中で1mmくらいは「それはちょっと……」と言われても仕方がないと思っていたけれど、いただいた返答は「いいじゃないですか! やったことがないので畳屋としても未知数だけど、ぜひ実験してみてください!」。しかも、その畳屋さんでも、いわゆるお風呂畳の材質(畳表:樹脂製、芯材:ソフトボード、裏面:ポリエチレン)で畳を作っていただけるとのこと。ベランダの寸法をお伝えしたら、幅90cm(規定)×長さ135cm(オーダー)のものを2枚、家まで届けてくださった。

トラックから畳2枚を一気に抱えて玄関に運び入れ、畳屋さんは言う。「軽いですよ」。持ち上げてみたら、たしかに、めちゃくちゃ軽い。体重計で計ると、1枚4kg。夫にヘルプをお願いするまでもなく、私ひとりで軽々と階段で持って上がって(リビング&ベランダは2階)、設置できた。

窓から裸足のまま、畳に着地できる。

腰痛持ちの夫が、「畳ええなぁ」と。

さっそく畳に上がってみた。腰を下ろしてみた。分厚い。今までベランダには厚手のラグを敷いたり、ゴザを敷いたりしてきたけれど、まったく違う。この感覚は初めて。厚みとクッション性が醸してくる「部屋感」が、ものすごく心地いい。なんだこれ!

ちょうど桜が満開の土曜日だったので、その日の夜、さっそくベランダで夜桜を楽しんだ。腰痛持ちの夫は、ラグの上だと30分もすればギブアップなのに、「畳ええなぁ」と言いながら、飲んだり食べたりたまに桜を眺めたり、1時間以上ベランダで過ごしている。地面の冷たさや固さがお尻に伝ってこないからか、娘5歳もいつもより座って遊んでいる時間が長い。ドタバタしていない。感触って情緒にダイレクトに影響するんだな。

あれから数日経って、いま、ベランダでこの原稿を書いている。もちろん、オン・ザ・畳。気分転換にごろんと仰向けになったりもしてみる。風が吹いて公園のクスノキの葉がわさわさ擦れる音も、背中に感じる畳の柔らかさも、心地いい。贅沢。眠ってしまいそう。

畳に座ってぼーっとするのが、めちゃくちゃ気持ちいい。

掃除は? 雨の日は? 軽さが弱点に!?

「どうやって掃除するの?」「雨の日はどうするの?」ベランダ畳の話をすると必ずいただく質問がこの2つ。畳は、普段は敷きっぱなしにしている。目立った汚れはまだないものの、なにしろ目の前が公園なので、気になるのは、砂。ごはんを食べたりPC作業をしたりでテーブルを丸一日ベランダに出しておいた日には、翌朝、すーっと天板に指を滑らすと、うっすら線がつく。畳も、同じだけの量の砂を、毎日浴びているはず。なので、その日はじめて畳にあがるタイミングで、とりいそぎ百均で買った小さな箒でサササッと掃いている。お手入れは、今のところ、それでおしまい。

あとは、濡れてもOKとはいえ、お手入れをラクしたい気持ちから、雨の予報が出ているときは、畳をあげている。といっても、雨の当たりにくいベランダの壁に立てかけるだけ。軽いので、2枚立てかけても10秒あまりで作業終了。面倒くささを感じる暇もないくらいで、ズボラにはありがたい。その軽さが、風にあおられやすいという弱点(?)でもあるのだけど。畳を迎えて初めての雨上がりの日、ベランダを覗くと、畳たちがかわいそうにドテッと、壁と反対側の手すりにもたれかかっていた。それからは、立てかけた畳の手前に、重さ7kgほどの収納ボックスを支えに置くようにしている。以来、風には負けていない。

かくして、ベランダ畳の実験が始まった。梅雨の湿気、真夏の陽当たりに、畳は耐えきれるのか!? そして、我が家がこの新しい空間(もはやひとつの部屋)をどれだけ楽しむか。ひとまず、今週末、ホームセンターに玉砂利を買いに行こう。畳と壁の隙間が少し空いているのが気になっていて、玉砂利を敷き詰めると雰囲気も出ていいかも、と思いついたのだ。畳が据わってから、ああしたい、こうしよう、がどんどん湧いてくる。未完成を引き伸ばしながら、ベランダ暮らしを味わっていきたい。

執筆者プロフィール

大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
夫とひよこ(娘・4歳)と3人暮らし。2017年春、新卒以来10数年勤めたシステムエンジニアの仕事を離れました。機嫌よく気前よく、生きたい・書きたい・働きたい!