畳屋さんとつくるわたしの暮らし

世界でたったひとつの畳ができちゃった! -その1-

文:山本しのぶ

その1 畳屋さんに相談したらどうなった!?

「暮らしの真ん中に畳があるようにしたい、と考えてもらえるのは畳屋にとって嬉しいことです」

工場と事務所に併設された、畳のショールーム。広々とした畳の空間いっぱいにい草の香りが満ち、奥の工場からは職人さんが畳を作っている「ガシャンガシャン」という音が響く。置き畳を買おうと決めたけれどどうやって決めたらいいか分からないわたしは、さっそく畳屋さんに相談におもむいた。

マンションの間取り図を広げ、畳屋さんにいま考えていることを伝える。

ー「マンションのショールームで見たオプションの和室は、なんだか違う気がして。でもいつかは畳を入れたいとは思っていたんです。夫婦が過ごす場所としてリビングに畳を置きたいです。でもどうやって選んだらいいのか……」

そんなわたしの話をじっと聞いた畳屋さんは、
「暮らしの真ん中に畳があるようにしたい、と考えてもらえるのは畳屋にとって嬉しいことです」
と言って、使い古しのござを持ってきた。

「見てください、これ。畳替えをした家から引き取ってきた畳表なんです。目が詰まってて、つやつやできれいなあめ色でしょう」
そう言いながら、うっとりした表情で畳表をなでながら見せてくれる畳屋さん。いいなぁ。この人畳が大好きだ。信頼できる。この人なら任せられる。とにかく素直に希望を伝えて、お任せしてみよう。

「素材やサイズは自由にできるんです。どこに置くか、どんなふうに使いたいかを考えて選んだらいいんですよ。①畳表の素材や織り方、②厚み、③畳床(芯材)、④へりを考えていきます。サイズは置く場所に合わせてオーダーメイドで変えられますし、置き方によってもアレンジできます」

ー「やっぱりい草、気持ちいいですね。いい香り。色があめ色に変わっていくのもいいですね。畳表はい草でお願いします」

「じゃあ、熊本産の最高級のい草でご用意しますね! 日本産の最高級のい草を使った畳表は長くて本数も多いので、目がぴっちりと詰まってるんですよ」
と畳表はあっさり決定。紙素材だといろんな色を選べるらしい。

畳屋さんにとって究極の命題とは!?

「じゃあ、畳床を見ていきましょうか」
と言って、次々にサンプルを持ってきてくださる。軽くて薄いのが置き畳のスタンダードのようで、コルクや発泡剤やスポンジを芯材にして、厚みは1cm~3cmくらいのものが多い。一つずつ足で踏みながら感触を確かめていく。

「ちなみにこれが藁材です。もともと畳は藁材を使っていて、敷き畳に使います。このショールームも藁材の畳を敷いていて、厚みは5cmです」
ずっしりと重く厚みのある、藁の畳床。改めて踏んでみて思わず声が出る。
ー「あ、これ、これが気持ちいい」
乗ったときに、沈み込むでもなく、足全体をそっと包み込んでくれるような心地よさ。クッションの柔らかさのような不安定なものではなく、じんわりとからだが受け止められるような感じ。思わず座り込んでしまいたくなる。

ー 「これがいいです」
わたしの発言にちょっと困ったような畳屋さん。
「マンションの密閉空間だと、湿気りやすいから、おすすめしていないんです」
ー「そうですか。それに確かに重いし、分厚いし、側面も綴じ糸が見えてるから、置き畳ならもうちょっと薄めだったらいいのかも。でも、この受け止めてくれる感覚が気持ちよくて……」
「だったらこれはどうでしょう」
と、別の素材でできた薄めの柔らかい畳床を持ってきてくださる。
ー「うーん、これはちょっと柔らかすぎる……」
どうにも煮え切らないわたし。
ー「こまめに上げたりとか湿気対策はするから、藁材がいいんです。この、じんわりと受け止めてくれる感じ。ほんとに気持ちいい」

たくさんのサンプルを踏んで踏んで踏みまくって、わたしの気持ちは決まってしまった。藁床で、綴じ糸が見えなくて、厚みもへりも適度な置き畳が欲しい。この気持ちよさは、からだが知っている。

意を決したような表情でついに畳屋さんは言う。
「分かりました! では、お時間ください! 試作品を作りますから」
その表情と発言にちょっと戸惑うわたし。あれ? もしかしてわたし、かなりの無理難題を言ってる?

「畳を置くことで、リビングを夫婦が日常的に一緒に過ごす居心地のいい場所にしたい」
そんな思いから始まった畳選び。どうやら「畳屋さんにとっての究極の命題」を突きつけることになっていたようだった。
「全然納得してもらえないんで」
という苦笑いもいただいて。

(つづく)

執筆者プロフィール

山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
夫と二人暮らし。作業療法士の資格を持ち、その人らしい暮らしや生き方をサポートをしていきたいと考えている。普段はのんびりしているが、気になることにはどんどん突っ込んでいく。食べることや手仕事をすること、旅行に行くことが好き。