【座り込め、妄想しろ、畳の上で。】~vol.003 賓日館

文・写真:大森ちはる

「それならぜひ、ヒンジツカンにお寄りなさいな。百二十畳敷の大広間は圧巻ですよ」。ゴザと柄杓に誘われて伊勢神宮を訪ねた私たちが「畳 by. DEMOくらし」の思惑を話すと、おかげ横丁 白鷹三宅商店の女将さんはそう教えてくれた。

ヒンジツカン? ……チンギス・ハン? ジンギスカン?

賓日館。

漢字のありがたさよ。行きかたを調べるためにgoogle検索して、頭の中のヒンジツカンが「賓日館」に変換された途端に、「貴賓をお迎えしていた館なんだ」と合点がいった。どんな雅な場所なんだろう。シャンデリアが煌めくシンデレラ的舞踏会の絵が浮かぶが、いやいや、畳の上でダンスはしないでしょう。実際にその場に身を置くまで、「百二十畳敷の大広間」のイメージは、パッと思い描けるようで靄がかったままだった。


ー Bedtime story♪

ねぇ、ママ。
今日行ったとこ、わたし、好きになったよ。ヒンジツカン。
最初はすっごいつまんなくて死にそうだったけど。だって、パパはオシゴトの話ばっかりしてるし、ママは隣のゴフジンとずっとおしゃべりしてるし。あーんなに広くて人がたくさんいたのに、青い目のこども、わたしだけだったし。誰もしゃべりかけてくれないの。つまんなくて、さみしくて、涙でそうだった。

だから、ずっと天井見てたの。あそこの天井ね、すごいの。あ、うん、シャンデリアもね。おっきかったよね。タタミにシャンデリアってヘンだなってはじめは思ったけど、今はあのチグハグが似合ってるなと思う。だってここ、ニホンだもん。

そう、それで。キラキラしてたの、シャンデリアだけじゃなくて、天井もだったの! フスマみたいにちっちゃい四角がいっぱい並んでて、四角のひとつひとつの中に金色のお花が描いてあって、光ってるところと光ってないところがあって。あそこ光ってないなって思っても、ちょっと首かたむけて見たら、光ったり。それでも光らないところもあったり。

いっぱい首かたむけてたのがおかしかったのかな。そしたら、ほら、ママの前の席に、パパのお部屋のニホンニンギョウのお人形さんみたいなお姉さんがいたでしょ。黒い髪の毛がツヤツヤの、たくさん模様の入った赤いキモノ着てたお姉さん。そのお姉さんが、「キンパクが貼ってあるんだよ」って話しかけてくれたの。うん、英語で。

それで、「足つかれない?」って聞いてくれて。「つかれた。こんなに地べたに座ってるの初めて。お姉さんは平気なの?」って言ったら、「平気だよ。ニホンブヨウ習ってるから」だって。なんかね、センスを持ってタタミの上で踊るダンスなんだって。あの大広間の舞台で踊ったこともあるらしいよ。

お姉さんも話し相手がいなくて暇だったんだって。だから、そこからいっぱいしゃべったの。途中、わたしいなかったでしょ? お姉さんがヒンジツカンの中を探検に連れて行ってくれたんだ。ニホンジンってさ、すごい技つかってさりげない模様入れたりするの好きだよね。「もっとバンバンやればいいのに」って言ったら、「それがオモムキなんだよ」って。オモムキ? 説明してくれたけどよくわかんなかった。

あと、わたしが足がつかれたって言ってたから、椅子に座らせてくれたよ。その椅子、窓のところにあったんだけど、目の前にお庭があって、その向こうに海が見えて、気持ちよかった。そこも床がタタミ。お部屋のショウジと窓のあいだの廊下みたいなスペースだったんだけど。前にパパが連れて行ってくれたリョカンはそのスペースが板の間でつま先が冷えちゃったけど、タタミってあったかいんだね。足を浮かしてなくても大丈夫だった。

そのお部屋の名前? なんだったかなぁ。お姉さんは「ゴテンノマ」って呼んでた気がする。えらいひとしか入れないお部屋なんだって。だから、ひみつだよって。うん、パパにもひみつ。お姉さんとママとわたしだけのひみつ。

そうだね、そろそろ寝るね。おやすみなさい。

賓日館とは……

明治天皇の母であられる英照皇太后のご宿泊に間に合うようにと、明治19年12月に着工、翌年2月19日に竣工。明治末期から大正初期にかけてと昭和初期の2回の大増改築を重ね、現在の状態となったのです。
明治24年7月29日から3週間余り、ご幼少時の大正天皇(明宮嘉仁親王)が避暑や療養、水泳訓練などを兼ねて滞在されたのをはじめ、歴代諸皇族、各界要人が数多く宿泊されました。
そして明治44年2月には隣接する二見館(三重県初の政府登録国際観光ホテル)に払い下げられ、二見館の別館として平成11年まで貴人の宿泊所とされてきました。
二見館の休業後、平成15年に二見町に寄贈。

賓日館公式ホームページ「賓日館概要」より抜粋

国指定重要文化財 賓日館
[所在地]三重県伊勢市二見町茶屋566-2
[TEL/FAX]0596-43-2003
[開館時間]9:00~17:00(最終入館 16:30)
[休館日]火曜日(祝日の場合は翌日休)
[入館料]大人 300円 小人(小・中・高) 150円 ほか
[ホームページ]http://hinjitsukan.com

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執筆者プロフィール

大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
夫とひよこ(娘・6歳)と3人暮らし。2017年春、新卒以来10数年勤めたシステムエンジニアの仕事を離れました。機嫌よく気前よく、生きたい・書きたい・働きたい。