終わらないもんね、お伊勢さんがある限り。〜誘われて、お伊勢参り。白鷹三宅商店の巻〜

文:やすかわのりこ 写真:大森ちはる

「昔はよく旅の人に連れられて、遠くまで旅をしたもんだけど。『一生に一度は伊勢参り』とか、おかげ参りって言ったかな。最近は敷かれるときは花見の時くらい。なんだかねー」
声の主は、DEMOくらし編集部の拠点・コミューン99の押入れの中のゴザ。その嘆きの声に端を発して、編集部で伊勢講「DEMOくらし講」を組み、ゴザ(と柄杓)を携えて伊勢神宮を詣でた。

伊勢神宮の御料酒といえば、灘の酒・白鷹。大正13年(1924年)に全国にある酒蔵の中から御選定されて以来、現在も伊勢神宮に献上され続けている。内宮前のおはらい町にある「白鷹三宅商店」では、伊勢神宮へと詣でる人々を迎え続けて来たのだという。ここは、白鷹の特別限定酒が角打ちでいただける場所だ。


1ページ目:おひざ元にいるということ。伝えるために言っておくこと、してあげること。
2ページ目:初めて出会った人に自分の持つ時間を費やして、『させていただく』という気持ち。

なんとなく、「ただいま」っていってしまいそう。

おかみさん: どうぞお口のほうから迎えてください。

並々と注がれた5勺の御猪口に顔を近づけると、フッと清々しい樽の香りが心地よく鼻を抜ける。この樽仕込みの純米吟醸が西宮にある蔵元『白鷹』で造られた特別限定酒。

おかみさん: 海の水で作った岩戸の塩をちょっとはさんでいただくと、その塩梅で甘見を感じたり、お酒の味の変化を楽しんでいただけますよ。

御料酒というと、なんとなく地元のお酒と思っていたけれど、神宮なので氏神様とは地元の範囲が違うと聞いて納得。伊勢神宮では『日毎朝夕大御饌祭(ひごとあさあゆうおおみけさい)』と呼ばれる、朝夕2回の神様のお食事が行われている。「召し上がられるものは自給自足だけれど、清酒を造るには技術がいるので、白鷹が御命を受けて造らせていただいている」そうだ。

編集部あずみ: この子(やすかわ)が、絶対ここに来たいって、ゆで卵食べたいって言ってここに来たんですよ!

そう、正確には焼き卵だ。三年ほど前、お伊勢さんでお参りした帰り路、ここで初めて『白鷹』の特別酒と卵をいただいた。見た目は普通のゆで卵なのに、白身がいつものよりプリっとしていて、このお酒ともよく合う。このシンプルな美味しさに感動して、お店の人を捕まえてあれこれ話したときに、焼いているんだよって教えてもらった。そのやり取りが、楽しくて、嬉しくて。次、お参りに来たら必ず来るぞって決めていたのだ。焼き卵は、1月から桜が咲く前の3月までの期間限定商品。そんなこととは全く知らず、2月も終わりかけの本日、ギリギリのタイミングで『パクリッ』。なんか、帰ってきたって気がする。食べられたことに感謝である。

伝えるために言っておくこと、してあげること。

取材に同行していた、春から小学生になるヒヨコが興味深々に御猪口へ顔を近づけると、おかみさんは軽い口調で止めた。「子どもには、まだ『お酒はいけないものだよ』と思わせておいてあげてください」。その後で「大人になってからのお楽しみにしとこな」とヒヨコに優しく声を掛けた。

ここまで私たちの道案内をしてくれた元伊勢神宮の宮大工の川村さんは、お酒が飲めないためお別れした。彼は帰るギリギリ迄、白鷹三宅商店を訪れた観光客に自ら話しかけて伊勢神宮のいろいろを紹介していた。みんな出会うことが無ければ知らないままでいた話に驚いた様子だった。

編集部あずみ: おかみさんは、伊勢出身なんですね。伊勢市にお住まいの方は、皆さん伊勢神宮の事に詳しいんですか?

おかみさん: 伊勢出身で興味のある人間は知っているのが当たり前。行事に関われば勉強します。意義も本ではなく、先輩に口伝えで教えていただきますし、やってはいけないことをやれば叱られます。そのことから、神様に対する気持ちを学んでいくのだと思います。
今は、叱りづらい時代になっていますけど、私達も子どもを育てる様な事をしていますので関わった親御さんには、『私達は叱ります』と説明を入れます。親御さんの仕事は、子どもが帰ってきたら『ほめてあげてください』と言います。参加してよかった事が無いと、伝承になっていかないから。
今、継いでいる子たちは、ご褒美をもらった子たち。その子たちが次世代に繋げる若者になっている。みんなが遊んでいる時間に大人と一緒に練習しているから、その子たちにはご褒美がないと。大人も打ち上げをするでしょう? 子どもも打ち上げしないとね。そうでないと続かないですよね。
人口も減っていくし、形は変わっていくかもしれないですけどね。でも、おひざ元にいる以上はご奉仕をしたい、させてもらいたい気持ちがあるので。できることにも感謝があります。他の方はできない事ですから。

編集部あずみ: 伝統がすごいね、守ってくださってるのがね。神宮さんがある限り終わらないもんね。

おかみさんの話にアンテナ『ビビーン!』。の顔がアタマをよぎった。思わず私は、自分たちのメディアで畳を扱っていることをおかみさんに伝えた。ワクワクしているあずみの顔は、まん丸お月さんに見えた。

おかみさん: 生活習慣でニーズにもよるじゃないですか。今は、へり無しの洋風が人気とか。畳の良さの落差はありますよね。人数が集まる時でも、洋室なら人数分の椅子がいるでしょうけど、畳なら何人でも、ぎちぎちでも座れるし。こちらでも『賓日館』に120畳敷の大きな部屋がありますよ。天皇陛下も入られて。

編集部全員: ソレ、ドコニアルンデスカ!

おかみさん: これから行っても閉まってるね。二見浦にある昔は旅館だった建物ですよ。お酒に添えたのは、そこの海辺の塩ですから。本当は二見浦の二見興玉神社(夫婦岩)で潔斎を清めて、外宮から内宮へ参拝。一番丁寧なのは、その後に朝熊山の金剛證寺で参詣する。

「お泊りは、どちら?」おかみさんは、地図を片手に宿からの行き方を調べて下さっている。その間も私達のお口にチャックができるはずもなく、このサプライズに興奮を隠しきれないでいる。「賓日館の120畳敷きの間、まさしくここで妄想するべきだね」。止める人は誰もいない。

おかみさん: 2つの岩をつないだ夫婦岩。夏至ですとその間から日の出が見えて、その奥に富士山が見えるのが絶景といわれています。それで『コノハナサクヤヒメ』さんが誕生された。だいたい町中ってストーリーとか神話とか、お話事になって成り立っていますよね。

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初めて出会った人に自分の持つ時間を費やして、『させていただく』という気持ち。

執筆者プロフィール

やすかわのりこ(三木市在住・1973年生まれ)
やすかわのりこ(三木市在住・1973年生まれ)
趣味も特技も特になし。これも、わたしらしさと言おう。笑