寝ゴザ・ピロシキ・ピロートーク ~夏の夜、ゴザとタタミの総集編。

文:やすかわのりこ

はじめまして、私はピロ(本名:安川)。これは去年の夏の思い出。

「おーい」駅に向かって手を振ると、改札口の前で眼鏡がきらり。こっちに向かって歩き出す女が一人、それがシキ(本名:宮本)。いつの間にやら編集部の畳の目から湧いて出たような…二人合わせて「ピロシキ」。今回は、『ゴザ・畳』をテーマにピロシキが寝ゴザの上からピロートークを皆さんにお届け。その前に、どうしてもシキに会わせたい人がいる。黒いシャツ着た彼女を乗っけて、少し高くなった空の下を赤い車が走り出す。目的地は、私の町にある畳屋さん。念願のご対面を果たし、夜の帳も下りて、夜がゆっくり転がり始める。

ピロシキさんセッティングオッケーです

六畳間にギュウギュウ敷き詰めた布団の上に、青々とした寝ゴザが二枚仲良く並ぶ。新鮮な気持ちを大事にしたくて、合宿当日まで使わず取っておいた、わたくしピロは「うぅっ☆」寝ゴザ初体験…。

ピロ:「何じゃこれ、動くたびにパリパリ、音が気になって落ち着かん。これでよく眠れたね」
シキ:「私は、台風で停電した時に使ったからね。エアコンは使えないし、乙女だから窓を開けるわけにいかないし。そんな時に『こういうもの』があると心強いよね」

ふぅん。シキの言うこういうものとは、

「昔から寝ゴザといって、布団の上にゴザを敷いて寝るものがあります。それを使うとエアコンいらずとまでは言いませんが、本当に涼しく眠れるのです」

これは、今から遡ること2018年の夏。DEMOくらし日本酒と畳の合同企画『夏』をテーマにマグロ・日本酒・畳の職人たちが対談→ザ・夏マグロ対談)した際の畳職人の前田さんの言葉。うふふ。ピロシキは、奥の手を使って寝ゴザを手に入れたのだ。

シキ:「眠れたよ。寝ちゃうと音も気にならなかったし、エアコンなくてもベタベタしなかったから、朝まで眠れたよ。さらっとして気持ちよかったんだと思う」

ピロ:「音は想定外だったけど、香りは予想通りめちゃくちゃいいよね。い草アロマオイルとか作ったら売れんじゃない?あ、不自然な香りになるなら、たたみみ→I love たたみみ♡)でじゅうぶんか」

シキ:「そうね。寝ゴザも直接肌に触れるものだから農薬の事を考えると、畳と同じく国産イ草で造られたものが安心よね。ところで、今日紹介してくれたピロの住む町の畳屋のおじさん。めちゃくちゃ良いキャラだったね。ピロとおじさんの馴初めは?」

あれは、笑いの神様が与えてくれた、パンチの効いた出会い。まだ寒さの残る三月。地元の畳屋さんでゴザが無料でもらえる→もらえるんですか、ゴザ⁉)という記事に半信半疑だった私は、近所の畳屋さんの場所を調べ車を走らせた。お店の前に到着するがどうも気が進まない。「ゴザをください」って言った途端「なんだ、この野郎!」。なんてグー挙げられたら、チョキ出しちゃいそう…。
「私の町の畳屋さんは、どんな人なの?」バクン、バクンと身体中が脈打つ。でも、ここまで来たんだもの「おりゃっ!」閉ざされた畳店の戸を引っぱる。突然襲い掛かるテレビの大音量に、私も負けじと「こんにちはー!!!ゴザもらえますかー?!」おっちゃんは「えっ、なんてぇ?聞こえん」ベタなやり取りを数回、最高の笑顔と一緒にゴザをくれた。「また遊びに来てもいい?」と訊ねると「ええよ、いつでもおいで」って私の手をぎゅっと握りしめた。その掌がすごく温かったから、その日は、なかなか興奮が冷めなかった。
(※ここで言う『ゴザ(古ゴザ)』とは、不要になって引き取った畳の表を剥がした物の事を言います

目には見えない

シキ:「ブルータス2018年8月号に『芝生とゴザ』の特集が組まれていたね。青い空、白い雲、眩しく燃える緑の芝生にゴザが映えて、なんとオシャンティな。そのとき貸し出しされていたのが畳屋さんでもらえる古ゴザ。(→公園でのレジャーはゴザを使って)」

ピロ:「そうだよ。あのシチュエーションでサングラスかけたおじいちゃん、おばあちゃんが登場したらカッコいいよね。敷物といえば、今の主流はレジャーシートじゃん?カラフルで素敵なデザインの物が安く手に入るし、工事現場を連想させるブルーシートは今じゃ花見の常連→花見が青い!)。でもね、芝生を痛めちゃうの。ゴザなら安心。天然素材で私にも優しいよ」

シキ:「ムレないし、おしり冷えにくいし、優しいね。老いはすべての人に平等にやってくるしね」

ピロ:「畳屋のおっちゃんが言うには、最近は、畳の表が痛んだら、裏を返してきれいな面を使う『表替』をする人は減っているみたい。もしかしたら、お手入れ方法を知らずに無駄に手放す可能性大→編集部、畳を上げての大掃除)だよね。知らないって残念」

シキ:「古ゴザって聞こえが悪いけど結構きれい。まだ使えるものなのにもったいないよね。畳屋さんもお金をかけて処分するわけでしょ?私達にしてみれば、天然素材の敷物に気軽に触れ合うチャンスだから有難いよね。こんな形の再利用なら、私は嬉しいけど。」

ピロ:「ちょいと、姐さん。うっかり見失いそうだけど、譲り受ける私達側に守るべきマナーがあることを忘れちゃいけないよ。古ゴザを処分する際は、ポイ捨て禁止。『各自治体のルールを守って捨てて下さい』ね。残念なことに、私はそこまで考えが至らず、おっちゃんの甥っ子さんに言われるまで気付かなかった。せっかく良いものだし循環させ続けたいじゃん?その輪の中に顔は見えないけど必ず相手がいる。『関わるみんなが気持ち良く』がイイな。芝生の上にタラーンと敷いて、ダラーンと横たわる。立ち位置は違うけど幸せを分け合えるって豊かな気がしない?」

シキ:「確かにね。物だけじゃなく責任も譲り受ける。今回お邪魔した畳屋のおじさんは、不要になって回収した畳の藁で作った芯材(畳床)を畑の土に混ぜられるサイズまで細かく切ってから、欲しい人に分けて再利用してたね」

ピロ:「こっちは田舎で畑があるから可能なのかも知れないけど、自分ができる方法で再利用しながら町の畳屋としてなりわってきた、おっちゃんの頑張りはすごい。だけど、細かくなった山積みの藁を見ると『処分にお金がかかる』『もったいない』が理由の一つであったとしても、決して楽なことではないよね。無責任に良い循環とか言った自分がキモチワルイ

シキ:「ドンマイ。どんとこい!」

ピロ:「はぁ…。こっちは、アカン」

シキ:「寝ゴザのパリパリのことかいっ!」

アキナイ人

『おっちゃん』て呼んでいるけど名前は前田さん。前田畳店の大将で当時八十六歳のおじいちゃん。体力が落ちて昔のように力仕事はできないけれど、今も現役。お客さんに呼ばれれば、自分で出向いて部屋の寸法を測る。「畳職人の仕事は、畳を造って、入れるだけじゃない。畳の上に置いてある全ての家財道具を移動させて、作業が終われば元に戻すまでが仕事や」。芯材になる藁も蓄えていて、作業場においてある三台の機械を使って畳を作る。うちの職人は腕がいいって嬉しそうに話す。

ピロ:「おっちゃんにとって、畳って何ですか?」

おっちゃん:「そんなもん、何でもあるかいな、仕事やがな」

シキ:「商いね」

傾いた太陽の光にさらされた、おっちゃんの細っこいけど真っ黒に日焼けした腕が『心配すんな。オレ、現役』って光って見えた。その後もバブル時代の話や、若い頃の話、趣味にわたるまで話は尽きなかった。

ピロ:「バタヤンからバブルネタまで面白過ぎた。私が知っている畳関係者は『I Love畳』。おっちゃんは、自分の働き方や畳よりお客さんが好き。私、そういう人も好き」

シキ:「お客様に対する姿勢を話すときは、真剣な顔になるから余計に伝わってくるよね。『とにかく真面目に、誠意をもって』これがおっちゃんの信念。情熱を注ぎ切るから、お客様に喜ばれると凄くうれしい」

ピロ:「ベタだけど、また頑張れるんだろうね。畳屋でいくと決めたからには、その道を精一杯やり抜く。戦後っていう時代がそうさせたのかもしれないけど…コレ褒めすぎ?」

シキ:「その仕事ぶりがお客様を感動させるんじゃないかな。作業場は感謝の印で溢れてたもん。私、大貝とぬいぐるみの組み合わせは、もうツボ入った。『これは、あの時の、ナニナニ。あれは…』なーんて、嬉しそうに説明して。お客様の事をよく覚えてたね。ピロの事は、忘れてたけど」

ムムッ、なんだか眠くなってきた。
おっちゃんは、もう寝てるかな?寝ゴザで寝たりするのかな?聞けばよかった。
でも、あれは聞いといた。この人に、この質問意味あるのかなと思いながら。

ピロ:「私が古ゴザを取りに来た時どう思った?

おっちゃん:「そんなん、何とも思わへん。でも、嬉しかったよ。そやけど、あんさんお胸がちょっと淋しいわな」

他人事ではないシキは、苦笑い。
「今度は、家に遊びにおいで。手ぶらで来るんやで」
そう言って、お土産に一部屋分を束にした古ゴザをもたせてくれた。その束の中から選ばれし一枚が、ぐるぐる巻きで縛り上げられ柄杓と共にお伊勢参りの旅→ゴザと柄杓がつなぐ縁)をすることになろうとは、このとき知る由もありませんでした。


シキ:「面白かった。濃い一日やったわ」

ピロ:「ウフフ、よかった」

シキ:「寝ゴザになれてきた?私はコレで寝た翌朝、腰痛が治ったよ。寝ゴザ効果なのかは判らないけど」

ピロ:「まじか!ひょっとしてイ草の中に入っているスポンジ的存在の力?それとも神秘的力か?」

夜も真ん中をとうに過ぎたころ、寝ゴザに横たえた体は寝心地に反応することをやめていた。ぬるーい会話とともに脳ミソも灯りを落とす。ピロートークはフェイドアウトした。

グッドモーニング ピロシキ

ピロ:「オハヨー。眠れた?

シキ:「オハヨー。眠れた。どうだった?」

ピロ:「途中でリタイアした。今夜もチャレンジするさ。んじゃ仕事に行きますか」

もともと眠りの浅い私には、タイムリミットがあるようだ。
体に馴染むのが先か、あきらめるのが先か。
そして、また夏が来る。今年こそ私好みの寝ゴザになーれ!

執筆者プロフィール

やすかわのりこ(三木市在住・1973年生まれ)
やすかわのりこ(三木市在住・1973年生まれ)
趣味も特技も特になし。そんな私も20代は「歌で飯食う!」って決めてました。ライブ明けの帰り道、都会のネオンを見送りながら、「脱・田舎!」と心に誓い、ソフトな家出から大阪に流れ着きました。音信不通だったためフラリと実家に立ち寄ると、あるはずの自宅はなく、足元に広がった更地に言葉もなく立ち尽くす。なんてこともありました。笑