文:野崎亜澄
「真綿で針を包む」「真綿で首を絞める」なんだか恐ろしいコトワザが並ぶ。 その「真綿」が、実は綿(めん)じゃなく絹(きぬ)でできていた事を初めて知った。
秋に福島県を訪れた時のことだ。
繭を煮て、うすーくうすーく引き延ばし、木枠にかける。 それを何度も繰り返し重ねていくことで、真綿と呼ばれるうっとりするほど柔らかい質感が出来上がるのだ。 その繊細で手間のかかる作業ゆえに、真綿の作り手はどんどんと減ってきていると言う。
「福島には桑の木がたくさんあって、良質な桑の葉がたくさん取れる。だからずっと昔から養蚕を続けることができたんだよ」
繭になる直前、蚕は大喰らいになる。1日に3度は新鮮な桑の葉を与えないといけないのだ。
実は、小学生の時、夏休みの宿題で蚕を飼ったことがある。 確かに大量の桑の葉を毎日学校の裏手に取りに通った。
本来は気持ち悪いはずの芋虫状の蚕。
でも白くてプニプニの彼らは、なぜか本当にかわいくて、毎日手に乗せて遊んでいた。
ある日急に桑の葉を食べなくなり、動かなくなる。
そして気づくとあんなにプニプニでかわいかった蚕が、白い繭になってしまっていた。
本当はこの時点で熱湯に入れて茹でなくてはいけなかったのに、愛着が湧きすぎて、茹でることはできなかった。
やがて蚕は大きな白い蛾となり、死んでいった。
真綿の産地、福島に行き、また再び蚕に出会う。
「相変わらずかわいいね」
そう言って、彼らの白いプニプニの体を優しくなでた。