文:みやもと あき
「お伊勢さんの鳥居の前で、ゴザを敷いて座ってみたい。」
バチ当たりかも?って思わなかった?
うん、そりゃ思ったよね。
神聖な場所で、何をアソンドルンダ!って。
怒られたらどうするのさ?
ワクワクのドキドキなのか、ハラハラのドキドキなのか・・・自分の動悸がなんなのか、
いまいち分からないまま、ついに来てしまった今日。
ガヤガヤ、ザワザワ、周りは観光客で大賑わいだ。
ひとつひとつは意味のある会話なのかもしれないけど、こんなにもごった煮だとただの雑音にしか聞こえない。
それにしても、巨大な鳥居である。聳え立つという言葉がぴったりだ。
立ったまま、周りの人と同じようにアタマを下げるが、どうも腰が浮わついている気がして何度も頭を下げ直してしまう。
もう、これから神様に会いに行くのに落ち着きなさいよ。こんなにソワソワ浮わついて、初デートか。
うん、あながち間違ってない。だって初めて会いに来たんだもんな。
いやしかし。そびえ立つ鳥居のふもとには、警備員室。
ナニヲヤットルンダ!って言われる?怒られるかも?
取り囲まれて取り押さえられる自分の姿が脳内によぎり、
ハラハラのドキドキが、大きくなる。
あー、ほんとに何をやっとるんでしょうね。ちょっと笑えて来たぞ。
しかしもう、鳥居前に座ってみる。と決めたんだ。
いざ、参らん!
雑音に囲まれながら、一気にゴザを敷く。動悸はごった煮になってもう訳がわからない。
「早く、早く」
「靴は脱がなアカンね?」
「荷物は?どうしよ」
急かすように慌しく座りながら、このザマは無礼でないか大丈夫かとアタフタしながら、ドキドキは最高潮。
これは、水泳の授業の時の、飛び込みで陸から足が離れた瞬間のアレかも。塩素の匂いがつんと通り過ぎる。
ついに私たちは、ゴザを敷き、座った。
鳥居を見上げること、数秒。
雑音は、地上2mを漂っていて、降りてこなかった。静かだった。こんなにも人がいるのに。
聳え立つ鳥居は、さっきよりも大きく見える。
ただ座っている私と、大きな鳥居、昼過ぎのあったまった青空。
思わず深々と頭を下げる。
ドキドキはどこかへ行ってしまった。
代わりに、なんだか大きなものに包まれているような、
不思議な気持ちよさに浸っていることに気づいて、驚く。
仰ぎながら、ずっと座っていたくなってしまう。…なんで?
(………)
あぁ。
もしや昔の人は…
大きなものを見て、ただ手を合わせたんじゃなかろうか。
そうして、ここに座って。
頭を下げたんじゃなかろうか?
座るのが無礼だなんて、誰が決めたっけ?私の先入観?
だって、雑音は中空を漂ったまま降りてこないじゃないか。
「**村から、やって参りました。村のみんなの思いを携えて。
やっとたどり着くことができて、嬉しいです。
ありがとうございます。おかげ様でございます。ありがとうございます。」
ただ頭をさげるだけじゃなくて。しっかり正座をして。
思わず感謝の気持ちを口に出したんじゃないか。
こんなにも開放的で、謙虚な気持ちになるならば。昔の人も、きっと。たぶん。
おかげ参りのゴザは、野宿だけじゃなくて…神様にご挨拶するときの、必需品だったのかも?
…なんてね!
フッと生まれた根拠のない確信に、心の中でほくそ笑む。
(おかげ参りに来た昔の人たちは、ここに、座って。手を合わせて。頭を下げていたんじゃなかろうか?)
もちろん全部、想像だけどね。
・ゴザと柄杓がつなぐ縁 〜誘われて、伊勢参り
・【座り込め、妄想しろ、畳の上で。】~vol.003 賓日館
・終わらないもんね、お伊勢さんがある限り。〜誘われて、お伊勢参り。白鷹三宅商店の巻〜