「畳は息子と相撲をする場所だ」畳サミット体験記

文:野崎 安澄

今年の6月畳サミットに参加した。

畳サミットとは…
2019年6月1日「いぐさの日」に合わせて、いぐさの産地熊本県八代市で畳に関わる業界の方々が一堂に集って「畳の未来」について講演を聞き、語り合ったイベント
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講演のテーマの一つとしてあがっていた「畳と子供の成長の関係」。

思い出してみると、子育て中、本当に畳にはお世話になった。

12歳の長男を産んでから、3回住む場所は変わったが、ずっと畳の部屋で家族全員寝ていた。(4回目の引越しの時に、布団からは卒業、各自ベッドになった)

次男を出産したのは、個人病院の畳の上。

ウンウン布団の上で唸りながら、助産師さん、夫、長男、お姑さんに囲まれて、まるで自分の家で家族に見守らながら産むような不思議な体験だった。

昭和初期くらいまでの日本は、本当はずっとそうだったのだろう。(江戸時代は天井から下がった綱を握って産んだらしい)

入院中も畳の部屋に布団を敷いて、親子同室。
家を建てた時も、迷うことなく1階のリビング横に畳の部屋を作った。むしろそれが「子育て世代のトレンド」だったような記憶がある。(今は違うのかな?)

友人たちの家にも、リビング横にやはり畳の部屋があり、子供達が遊ぶ部屋になっていた。
母親たちはリビングでくつろぎながらも、安心して隣の畳部屋の子供達を放っておける。

転んでも頭をぶつける場所もなく、座ることも寝転がることもできて、
子供にとっては最高の遊び場所。
おもちゃ、ジャングルジム、滑り台。
プラレールの線路で、畳の部屋はたいてい埋め尽くされる運命だ。

友達のパパは家を建てる時

「畳の部屋は絶対必要。だって息子と相撲する場所だろ」

と言っていた。

女子の家の大きなお雛様も、大抵畳の上。
そう。
毎晩絵本を読んだ思い出も、子供が熱を出して、夜中に心配のあまり何度も熱を測った思い出も、全部畳の上。
寝起きに長男が出した鼻血のあとは、今も家の畳に残っている。

それくらい、私の子育ての思い出と畳は、密接につながっている。

上の子が中学生、下の子が小学生高学年になり、さすがにもう別々に寝ているけれど、足掛け10年、畳の部屋にお世話になった。

畳サミットに参加して、「子育て世代と畳」についての講演を聞いた時、

そんな自分の怒涛の子育て10年間と畳の関係を、ふと思い出した。

「土日にシーツを洗う必要がないのが楽なんですよ」

あたふたしている私たちは、よほど場違いだったんだろう。

熊本で行われた畳サミットの看板の前で、ゲリラゴザ を試みる私たちに

「撮りましょうか?」

と声をかけてくれた。

名札には、イケヒココーポレーションの藤田さんという名前が書かれている。

勝手にちょっとしたアウェイ感を感じていた私たちは、優しそうな、そしてなんとなく不器用そんな藤田さんの好意に甘えて、2人の写真を撮ってもらった。

写真を撮り終わると、畳サミットの一角にある商品紹介の場所に案内される。

まずは、登壇者の1人株式会社ままこや 山野井 恵摩さんと開発したという『こどもおひるねいぐさふとん』。

山野井恵摩さん
ご自身も2児の母であり、理学療法士。熊本県内で親子向け発達教室を営んでいる方だ。実は2018年の畳サミットに登壇したことがきっかけで、こどもおひるねいぐさふとんの開発や、
「畳の良さとその暮らし方を知り、一人でも多くの畳のファンを増やす」ことを目指すアンバサダープログラムを企画している。


藤田さん「このいぐさのお昼布団、肌触りもいいし、軽いし、汗も吸収してくれるしいいんですよ。自分の子供の時は、保育園に持っていくのは普通の布団だったんですけど、これが自分の子育て中にあったらよかったなーと」

昼寝用の布団は出産祝いにぴったりだね!と盛り上がる。

確かに、いぐさの香りに癒される。何より肌に吸い付く綿に比べて、とても涼しそうだ。

子供が小さい時、よく外出先で寝てしまった時やオムツ換えをするために、大きいタオルや敷物を持っていた。あの敷物の代わりに、このおひるねいぐさ布団があったらどうだったろう?

そんな話をしていると、偶然、山野井 恵摩さんご本人が通りかかる!


山野井さん「もともとは子供専門の理学療法士をしていたんですよ。実践の中で磨いていって、赤ちゃんの体操教室を始めたんです。
その教室に畳をいただいて、使ってみて初めて畳の良さがわかったんですよ。それまでは畳なんて使っていなかったんです」

なんと。畳アンバサダーの企画までされている方でも、もらって使ってみるまで畳の良さがわからなかったとは・・・。

ということは「畳は子供と相撲をする場所」と言っていたパパは、直感的にそのことを知っていたのかもしれないな、と思う。
相撲をしても、体操しても、転んでも、痛くない。
足も冷たくないし、裸足に畳の感触は心地いい。踏ん張りだってきく。

そういえば、我が家の畳の部屋で、子供達はよくでんぐり返しや側転をしていたなぁ。リビングルームでは決して誰もしないのに(テーブルとかあって危ないからね)。

山野井さん「そのあと現代の子育てでは、赤ちゃんのうつ伏せが少ないっていう話を企画の方としていたんですね。
それから、子供達の体幹を鍛えるための行為としてハイハイがとても重要と言われているんですが、それを子どもにさせるためには、今の住環境で適した床材ってなんだろう?って探した時に”畳”だなって。
ただ、現代のお家では畳がない家が多いので、折りたたみの畳を提案させてもらいました。


そうか。我が家や、私の友人たちの家は、まるで真似っこしたようにリビング+畳の部屋だったけど、それはスタンダードではなかったのね!

畳の部屋のない家に遊びに行くと「子供たち遊びにくいな」なんて感じたものだったけど、それが”普通”だったのだ。


山野井さん「こちらの昼寝用いぐさおふとん、うちも保育園に持っているんですけど、土日シーツを洗う必要がないから楽なんですよー。
ゴザって夏のものっていう認識があるんですけど、実は冬でも使えて暖かいんです。
それがまだまだ伝わっていないですよね。一年中この布団を持たせています。」

私もなんとなく勝手にゴザは夏のイメージを持っていたが、よく考えたらオールシーズン使えるのだ。だって畳は1年中家に敷かれている。
天然で安全で、よい香りのするゴザの上で寝るのは、さぞ気持ちいいだろう。
→寝ゴザの記事はこちら

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今でも不思議と次男は畳の上に寝転がってマンガを読んでいる。
ソファーだってラグだってあるのに、なんでか知らないうちに、畳の上でゴロゴロしているのだ。

陽がよく当たる和室は暖かく、冬になると太陽を恋しがり、和室で勉強を始める。

リビング横の畳の部屋は、今でも近所の子供達の溜まり場だ。
みんな畳の上に座って、ゲラゲラ笑いながらゲームをしている。

「ママ、見てー」と昔は来ていたのに、私なんか放ったらかしで友達と遊んでいる。

そんな姿を見て、ふと、子育ての終わりが近づいているんだなぁ、と感じる。

夏の終わりのように、ちょっと切なくなった。