イベントレビュー

土を耕し、泥をかき混ぜ、苗植えた ~白鶴御影校~

文:大森ちはる

大きなしめ縄がかかった酒蔵の前が、田植え会場。目の前には、プランター。プランターの中には、土。「はい、苗を植えましょう」ではなく、「こうやって土を混ぜてくださいねー」と田んぼづくりから始まりました。去年のこの教室で使った古い土にスコップを入れると、「ミミズおったー!」の声があちこちから上がります。

土を耕せたら、お次は、プランターに水を流し込んで、代かき(しろかき)。「たのしーい!」とプランターに入り込んで裸足でじゃぶじゃぶと土をならすお子さんたちの姿も。おとなも負けじと、汗ばむ陽気のなか、プランターに腕を入れ、泥を混ぜて混ぜて、かき混ぜます。ひんやりしたお水と泥の感触は、うーん、なかなか気持ちいい。

土と水をならせたところで、「指3本で、苗3本を苗床からはがす感じでね。根っこは抜いちゃダメですよ」とレクチャーを受けながら、ワイワイと出来たてホヤホヤの田んぼに「白鶴錦」の苗を植えました。

これから10月の収穫まで、台風を耐え、スズメの攻撃をかわし、元気な稲に育ちますように!


【当日の詳しいレポートは以下】

 

「あっ、はくつるさんや!」

梅雨はいずこへ? なピーカン晴れ。
眩しさに目を細めつつ、4歳の娘の手をひいて、てくてくと阪神住吉駅から南下すると、阪神高速越しに、青地に羽を広げた白い鶴の、大きな看板が目にとまります。
「あっ!」と娘が看板を指さし、「はくつるさんや!」。
白鶴酒造資料館に伺うのは今年4月の「酒蔵開放」以来2度目の彼女にも、すっかりあの白鶴マークはお馴染みになっているようです。

白鶴酒造資料館でこの日開催されたのは、白鶴御影校「米・水・人のお酒造り教室」。
おとなもこどもも一緒に楽しみながら米づくりから酒造りまでを体験・見学する、夏・秋・冬の年3回のプログラムです。
その第1回「夏:田植え」(ご案内ページ:リベルタ学舎HP)でした。

資料館に入ると、そこは……

大正時代に建てられた酒蔵を改装して開設された、白鶴酒造資料館。
中は薄暗くひんやり(これは冷房のおかげだと思いますが)していて、一歩足を踏み入れると、陽射しをビシバシ浴びていた目と肌が安らぎます。
そして、試飲コーナーがあるせいでしょうか、ほのかに漂う日本酒のいい香り。
視覚に触覚、嗅覚……五感がくつろぎモードに突入です。

「米・水・人のお酒造り教室」の会場は、資料館の奥にありました。
受付を済ませて「こちらへどうぞ」と案内された先は、畳の間。
会場いっぱいに、畳が敷き詰められていました。
靴を脱ぐことで、また一段、くつろぎモードのレベルが上がります。
そして、ふかふかの座布団に座りこんで視線を落とすと気がつくのですが、この畳、さすが白鶴酒造さんだけあって、ヘリが鶴の模様。おしゃれ!
すっかりくつろぐおとなの横で、こどもたちは、立ったり座ったり、寝転がったり。
受付でいただいたお土産の白鶴酒造さんオリジナル手ぬぐい(もちろん鶴モチーフ!)をさっそく首に巻く姿もありつつ、思い思いに、10:00の開始を待ちました。

灘五郷で、おいしいお酒ができるワケ

プログラムの最初は、白鶴酒造・大岡さんによる「お酒造りで感じる日本の四季」のお話。
西宮から灘にかけての一帯は、「灘五郷」と呼ばれる日本一の酒どころです。
なんと、今なお全国の3分の1ものお酒が、ここ灘五郷でつくられているそう。
えー、そんなに!? なんで!? そのワケを教えていただきました。

《理由その① 米》
日本酒の原料となる酒米。
播磨や丹波、六甲山の北側は、昔から酒米づくりに恵まれた土地なんだそうです。
酒米の王者と呼ばれる「山田錦」も、兵庫県生まれ。

山田錦のお膝元でありながら、白鶴酒造さんは、山田錦を超える酒米の研究開発にも力を入れており、10年以上前から山田錦の兄弟米を開発するプロジェクトをされてきました。
今や生産されていない山田錦のお母さんにあたる酒米を復活させ、お父さんにあたる酒米と交配。研究を重ねに重ねて、ついに、山田錦よりも粒が大きく、成長過程でも倒れにくい酒米が誕生!

それが、このあとに田植えをする「白鶴錦」です。
たわわに実をつけた稲穂と精米した米粒を間近に見せていただき、「今からこれを育てるのね!」とワクワクが募ります。
その一方で、プロジェクターから映し出される去年の田植え〜収穫の様子の写真から、台風に虫に、育てる難しさも予習。

《理由その② 水》
六甲の……? おいしい水!
六甲山地が地下に蓄える水の良質ぶりは、先日、某テレビ番組(ブラ○モリ「#64 神戸の港」)でも取り上げられていましたね。
お酒造りにぴったりの、ミネラルが豊富なお水。
白鶴酒造さんは、近隣の酒蔵と共同で山のふもとの源流近くから地中にパイプをひいて、酒蔵にその地下水を直接引き入れていらっしゃるんですって!

六甲山地の恵みといえば、冬にぴゅーっと吹き降りてくるあの冷たい風・六甲おろし。
六甲おろしがもたらす寒さも、おいしいお酒を造るうえで大切なたいせつな要素なんだとか。

《理由その③ 人》
丹波杜氏(たんばとうじ)。
お酒造りの工程や、気候や原料の状態ですぐに揺らいでしまうその風味を、経験と勘でコントロールする凄腕の職人さんたちが、丹波地方にいたそうです。
夏の田植え、秋の収穫の時期を丹波で過ごし、冬は灘五郷の酒蔵に泊まり込み、お酒造りの終わりの合図となる春の「こしきだおし」と共にまた丹波へ。

昔はぜんぶ職人さんが手作業でされていたお酒造りも、今ではもちろん、機械でできるところは機械に任せ、品質もデータ管理されています。
それでもやっぱり、微妙な加減や最終判断は、人の肌感覚に勝るものはないそうです。

なるほど、だから、その恵みと知見に触れる「米・水・人のお酒造り教室」なんですね!

いざ、田植え!

白鶴酒造資料館のお隣は、稼働中の酒蔵です。
入り口に大きなしめ縄がかかったその酒蔵の前が、田植え会場でした。
この酒蔵では、今はちょうど梅酒づくりのシーズンだそう。
酒蔵の脇には、和歌山から運ばれてきた梅たちが入っていたケースがうず高く積まれていて、田植え会場に向かいがてら顔を寄せてみると、まだ梅の残り香がありました。

田植え指導をしてくださったのは、去年に引き続き、神戸米マン! こと、神戸市西区・小池農園こめハウスの小池潤さんです。
目の前には、プランター。
プランターの中には、土。
「はい、苗を植えましょう」ではなく、「こうやって土を混ぜてくださいねー」と田んぼづくりから始まりました。

まず、プランターの下側にある去年のこの教室で使った古い土と、上側にかぶさった新しい土を、スコップや腕で混ぜます。
あちらこちらから「ミミズおったー!」なんて声も。
きっと、古い土のなかで、のびのびと冬を越したんでしょうね。
ミミズがいるということは、その土が養分豊かな証拠です。
神戸米マン・小池さんからは、「ミミズは心臓が8個あるから、切っても死なないんですよ」なんてトリビアも飛び出しました。

土を耕せたら、お次は、プランターに水を流し込んで、代かき(しろかき)。
「汚れるのイヤー!」と泥に腕を入れるのを拒む我が娘の横では、「たのしーい!」とプランターに入り込んで裸足でじゃぶじゃぶと土をならすお子さんたちの姿も。
私たちおとなも、汗ばむ陽気のなか、プランターに腕を入れ、泥を混ぜて混ぜて、かき混ぜます。
ひんやりしたお水と泥の感触は、なかなか気持ちが良かったです。

土と水をならせたところで、いよいよ、白鶴錦の苗を植えましょう。
「指3本で、苗3本を苗床からはがす感じで〜。根っこは抜いちゃダメですよ」と小池さんからレクチャーを受け、「こんな感じ?」「そうそうそう」と皆さん、ワイワイとプランター田んぼに苗を植えていきます。


最後は、白鶴酒造資料館のエントランスにプランターを移して、集合写真をパシャッ。
プランターカバーは、六甲山の間伐材でできたオリジナルのものだそうです。

これから10月の収穫まで、台風を耐え、スズメの攻撃をかわし、すくすくと白鶴錦が育ちますように!
この日の参加者さんには、1枚ずつ白鶴御影校の「学生証」が手渡されました。
7〜9月のあいだ、ここに稲の様子を見に来ると、毎月1回ハンコを押してもらえる仕組みです。
ハンコが全部たまると、皆勤賞なるものもあるそうで……!?
皆さんで成長を楽しみましょうね。

田植えのあとは、プチ宴

からだを動かしたあとは、足と手をきれいに洗って、もう一度資料館の畳の間へ。
お疲れさまでした! のプチ宴です。

ここは、白鶴酒造さん。
宴というからには、そうです! 日本酒!
この日は、定番の「大吟醸」と「梅酒原酒」に加えて、夏限定の「大吟醸 生酒」もラインナップされていました。
そして、こどもたちやお酒を飲めないおとなの方々には、甘酒を。
甘酒も、定番の赤い缶の「あまざけ」に加えて、季節限定の水色の缶の「冷やしあまざけ」、それから抹茶とコラボレーションした「白鶴 贅沢甘酒 抹茶」の3種類をご用意してくださいました。
おとなもこどもも「どっちにしよう〜」と悩みながら「これください!」と飲み物を選び、お弁当を受け取って、車座に座ります。
白鶴酒造・西田さんに日本酒の乾杯のお作法を教えていただき、それでは、乾杯〜っ。

おとなのごはんは、岡本にある発酵食品ラボ・コージーカフェさんの、発酵づくしの豚の生姜焼きお弁当。
お米は、神戸米マン・小池さんが育てられた神戸米なんだそうです。
噛めば噛むほどお米の甘さが口の中に広がり……おいしい!

こどものごはんは、御影のかぼちゃ専門店・Zucca FINE VEGETABLE & DELIさんの、栗かぼちゃお弁当です。
かぼちゃフライに、かぼちゃサラダ……こどもたちのお箸の進むこと、すすむこと。

早々にお弁当を食べ終えたこどもたちは、「あまざけ」と「冷やしあまざけ」の飲み比べもしていました。
「『あまざけ』の方があまいねー」「そうかな、同じくらいじゃない?」「わたしは、『冷やしあまざけ』の方がさっぱりしてて好きだなー」など、感想をやりとりする姿も。

お腹いっぱいになったところで、お開きの時間です。
「白鶴御影校の学生証を持って、ぜひ、お米が育つ様子を見にきてくださいね!」と声をかけていただき、「米・水・人のお酒造り教室」第1回は終了しました。

4ヶ月後の収穫が楽しみですね〜!

参加された皆さまのご感想より

『田んぼって何?』と田んぼを見たことがなかったこどもに、田んぼづくりから田植えまでを体験させてあげられて良かったです」
「お米の成長がたのしみです」
「自然に触れる機会がなかなかなくて、東灘の街中で田植えができるなんて思ってなかったので、楽しかったし嬉しかったです」
今はいろんなところで分業が進んでいて、農作物も『つくる人』と『食べる人』が別々。我が家は『食べる人』なのですが、こどもに農作物を育てる過程を知ってほしいと思って参加しました」
「こどもが土いじりが好きな様子なので、いい機会だと思って参加しました。本人、すごく楽しんでいました」
「地元にありながら、なかなか酒蔵に足を運ぶ機会ってないので、いいきっかけになりました。お米の成長、見に来ます」

主催:白鶴酒造株式会社
企画運営:一般社団法人リベルタ学舎

【ご協力いただいた皆さま】
田植え指導:小池農園こめハウス http://kobe-oishiikao.jp/corp/koike/
おとなお弁当:発酵食品ラボ・コージーカフェ http://cozycafe-kobe.com/
こどもお弁当:Zucca http://deli.zuccazucca.com
白鶴御影校「学生証」用紙:御影倶楽部 https://www.facebook.com/mikageclub/