構成:湯川カナ
「コーヒーは、食後の飲み物のイメージがありますが、食事にも合うんですよ」 日焼けした精悍な顔立ちのUCCコーヒー鑑定士・中平さんが断言すると、「いやいや、食事との相性なら、日本酒ですよ」と白鶴酒造利き酒鑑定人・植田さんが、ロングヘア―の巻き髪をあでやかに揺らして応戦。
神戸野菜と生ハムの湯葉春巻きから始まって、鱧と丹波赤鶏の和洋それぞれの料理、鯛飯に時季のフルーツという贅沢な全8品のコース。ひとつひとつの料理に、最高に合う(はずの)コーヒーと日本酒が出されます。プロの解説を聞きながら、舌と脳でマリアージュを味わう、至福の時間。
「鯛飯にはやっぱり、ブルーマウンテンです」
「フルーツに、これはもう、純米大吟醸・白鶴錦しかない」とプロの熱弁を聞きながら、でも「いやいや、まさか。騙されないぞ」と思うのに、実際に合わせてみると、うーむ、合う。
ぐやぢい。でもやっぱり……合う! Yes! マリアージュ!!
「食べる」の常識の枠、「楽しみ」のフィールドを、ぐぐっと拡げてくれたイベントでした☆
【当日の詳しいレポートは以下】
構成:大森ちはる
4歳児も、看板を見るなり「白鶴さん!」
7月23日日曜日、朝9:30。
夫と娘4歳と3人で、阪神御影駅を出発した普通電車にガタンゴトンと揺られていると、住吉駅までの車窓から、青地に羽を広げた白い鶴の、大きな看板が見えました。
御影駅での長い特急待ちの時間に飽きて「もう降りる~」と駄々をこねていた娘が、こちらが教える前に「ママ、白鶴さんやで!」と指をさします。
娘が白鶴酒造資料館に向かうのは、この日で3回目。
今年4月の「酒蔵開放」、6月の白鶴御影校「米・水・人のお酒造り教室」ときて、すっかりロゴマークも覚えた4歳児。お酒を嗜むにはほど遠い年頃ながら、すでに身近な「白鶴さん」になっているようです。
コーヒー VS 日本酒
白鶴御影校「めぐみめぐる神戸食卓講座」は、白鶴酒造が、神戸を拠点とする「食」の企業とコラボレーションするシリーズの講座です。
コンセプトは「神戸の恵みを、毎日の食卓に」。海と山に挟まれた自然の恵みと、貿易拠点としての港町の恵み。ふたつの恵みによって育まれた地元の食文化を、ふだんの家庭の食卓でしっかりたっぷり楽しむべく、プロの知見を聴いて、自分の舌で実際に味わって、学びます。
この日は、その第1回「コーヒー VS 日本酒 ~この料理に合うのはどっちだ?~」が、白鶴酒造資料館で開催されました。
”対決”に受けて立たれたのは、神戸が創業の地であるUCCホールディングス。
神戸港は、コーヒー豆を日本に初めて輸入した港であり、阪神淡路大震災が起こるまではコーヒー豆の国内最大の輸入港だったのだそうです。
「コーヒーは、食後の飲み物のイメージがありますが、食事にも合うんですよ」
「いやいや、食事との相性なら、日本酒ですよ」
互いに譲らない、UCCコーヒー鑑定士・中平さんと、白鶴酒造のきき酒鑑定人・ナオ先生。コーヒーと日本酒、神戸に根ざす2つの文化の1日限定スペシャルコラボレーションが、いま始まりました!
自分好みの《日本酒》の見つけ方
食事との相性も大事だけれど、自分の「好き!」に出会うことは、もっと大事。
まずは、コーヒーと日本酒それぞれの風味のバリエーションと、自分好みの風味の見つけ方について、教えていただきました。その間、子どもたちは、会場脇に設けられた畳(ヘリが鶴の模様!)コーナーで、絵本を読んだり、お絵描きしたり、寝転んだり。思い思いに過ごします。
「みなさん、日本酒のラベルの読み方って、ご存知ですか?」と現れたのは、きき酒鑑定人・ナオ先生(横田尚子さん)。
白鶴酒造社内で年に1回行われる「きき酒鑑定人試験」に10年連続で合格された、日本酒のプロフェッショナルです。
ラベルには、そのお酒の風味を知るためのヒントが盛りだくさん。
例えば、「吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」などの特定名称酒。
名称は違えど、どれももとは、お米。お米と米こうじに加えて醸造アルコールを原料とするかどうかや、お米の精米歩合などによって、どの特定名称酒に分類されるかが決まります。
銘柄が違っても特定名称酒ごとの風味の方向性は似通っているので、ある銘柄の吟醸酒と純米吟醸酒を呑み比べて、「こっちが好き」と思った特定名称酒の違う銘柄を……などなど辿っていくと、手当たり次第に飲むよりも、自分好みの風味に出会いやすくなるそうです。
そして、「しぼりたて」「生貯蔵酒」といった表記。これにも、貯蔵や出荷(瓶詰め)の段階での加熱処理の有無などの明確な基準があるとのこと。
へぇ~、てっきり「新鮮ですよ」の雰囲気を伝えるフレーズだと思っていました!
あとは、「アルコール度数」「日本酒度」「酸度」「アミノ酸度」。
アルコール度数や日本酒度が高いお酒って、なんとなく辛口のイメージがあります。でも、実際の味わいは酸度などによっても左右されるのだとか。
「度数のわりに、飲んでみたら辛い(甘い)……」と感じることがあるのは、そういうわけなのですね。
自分好みの《コーヒー》の見つけ方
続いて、黒のバリスタエプロンをパリッとまとわれたUCCコーヒー鑑定士・中平尚己さんからお話を伺います。
中平さんは、もともと総合職としてUCCに入社され、お仕事人生の始まりは、食品も取り扱う営業マン。
そこから、合格率ひと桁の社内資格「UCCコーヒーアドバイザー」「UCCコーヒー鑑定士」のほか、アメリカやブラジルのコーヒー専門家資格などの取得も経て、現在はUCCコーヒーアカデミー専任講師を務めていらっしゃいます。
年に数回、コーヒー豆の産地に視察に赴かれており、この日もルワンダ出張から帰国されたばかり。
「コーヒーの実って、見たことありますか?」
中平さんからの問いかけに、30名超の会場で手を挙げられた参加者さんは、お一人お二人。
それもそのはず、コーヒーは赤道を挟んだ一定の熱帯地域(コーヒーベルト)でしか安定的に栽培できない農産物なのだそうです。
コーヒーの木になる赤い果実(コーヒーチェリー)から取れる種子が、コーヒーの生豆。生豆を乾燥させて焙煎(加熱)したものが、私たちがお店で見かけるいわゆる「コーヒー豆」です。
普段、缶コーヒーやインスタントコーヒーを多く飲んでいると忘れがちになりますが、コーヒー豆は農産物。
農産物だから、「環境(生産国)」「種類(栽培品種)」「処理(精製方法)」によって、無数の風味のレパートリーがあると、中平さんはおっしゃいます。
環境でいえば、花やフルーツ、ハーブ、スパイスなど、その土地でつくられる農産物の風味が、コーヒーにも出るのだとか。アフリカ大陸の「キリマンジャロ」にはフルーツタルトなど酸味のあるスイーツが、南米産の「ブラジル」にはバター風味で質感のあるマフィンなどが合うそうです。
産地が同じでも、品種によって味が違えば、外観からしてまったく異なることも。
「例えば柑橘類でも、レモンと柚子とポンカンでは、味も形も違うでしょう?」
なるほど!
知らないがゆえに、今まで「コーヒー豆」を均一的なものと捉えていました。
また、コーヒーチェリーの中身から生豆を取り出す処理にも3種類の方法があって、それぞれでまるで赤ワイン(香り豊か)・白ワイン(すっきりとしたキレの良さ)・ロゼワイン(風味豊かでクリアな酸味)ように印象が変わるんですって。
深いなぁ、コーヒー!
これら「生産国」「品種」「精製方法」をポイントに飲み比べていくのが、自分好みのコーヒーを見つける近道なのだそうです。
いざ、実食!
コーヒーと日本酒それぞれの味わいのバリエーションの豊かさを学んだところで、「この料理に合うのはどっちだ!?」の時間です。
白鶴酒造では、20年以上前から日本酒と食べ物の相性を研究されてきました。対するUCCも、コーヒーのフードペアリングには深い造詣をお持ちです。
「コーヒー VS 日本酒」の”対決”は、和洋織り交ぜたフルコース計8皿の一品ずつに、両社が「ぴったり!」と太鼓判を押すコーヒーと日本酒を合わせる形式で進みました。
旧居留地のレストラン・レニージョエルからケータリングされた、神戸産の無農薬野菜をはじめ、兵庫県産食材がたっぷり用いられた料理たち。
お皿が替わるたびにコーヒーとお酒も替わり、目と舌でランチを楽しみつつ、耳からは中平さんとナオ先生の「なぜこのコーヒー/日本酒を合わせたか」の解説が入る、なんとも贅沢なランチタイムです。ふだん、あえてお店で手に取ることがほとんどない「まる」を飲んだり、中平さんの「ご飯にはやっぱりブルーマウンテン!」のおすすめに従ってみたり。
子どもたちはその傍らで、灘区水道筋・にこねこ堂のパンバイキングと、カスタードプリンを。長田ご出身のご主人こだわりの「すじこんカレーパン」や、六甲山麓牛乳で作ったプリンは、特に子どもたちに人気の様子でした。
コーヒー VS 日本酒、その結果は……
多数決を取ってどちらかに軍配を上げたりなどはありませんでしたが、参加者さんお一人おひとりから、料理に日本酒/コーヒーを合わせた感想タイムが設けられました。
「日本酒もコーヒーも、ふだんは味や香りの違いを覚えられないのですが、今日は8種類も代わる代わる飲めたので、自分の『これ好きかも!』がわかりました」
「食事にコーヒーを合わせる想像がつきませんでしたが、プロの説得力でしょうか、合うなぁ~! と率直に思いました」
「『まる』を初めて飲みました。ごめんなさい、『こんなものだろう』と勝手に踏んでいました。思った以上においしかったです!」
「じつは毎日、味付け海苔を巻いたおにぎりとコーヒーが朝ごはんなんです。この相性の良さを、やっと周りにも分かってもらえて嬉しい!」
「お酒は苦手なのですが、サラダに合わせた『淡雪スパークリング』はすごく飲みやすかったです」
「これからも食事にもコーヒーを合わせたいと思うが、外食でそれができるお店がないのが残念。これが文化として広まったら嬉しいです」
「これまでご飯にコーヒーを合わせたことがなかったように、フルーツと日本酒も初めての組み合わせだった。どちらも合いますね!」
などなど、皆さん、イベント後もふだんの食卓でコーヒー/日本酒を一層楽しめる力を育まれたようです。
帰りがけにお土産として、UCCから神戸開港150周年記念のドリップコーヒー、白鶴酒造から「白鶴 大吟醸」が配られました。
ドリップコーヒーは、UCC六甲アイランド工場製造の、オリジナルブレンド。どんな食べ物に合うか、試す楽しみがありますね。
「白鶴 大吟醸」は、ナオ先生曰く、アーモンド、チョコレートに合うそうです。
こちらは、リビングでごろんと映画を観ながらいただくのにぴったりそうな予感が!
主催:白鶴酒造株式会社
協力:UCCホールディングス株式会社
企画運営:一般社団法人リベルタ学舎
【ご協力いただいた皆さま】
ケータリング:株式会社ゼロフォーム http://www.zeroforme.com/official/
子ども昼食:パン本舗 にこねこ堂 https://www.facebook.com/niconecodo/
めぐみ・めぐる 神戸食卓講座「神戸発・食の本気話(マジバナ)」
神戸の豊かな「めぐみ」を、ふだんの家庭の食卓で、しっかりたっぷり楽しもう!
私たちの「食べる力」を高める、白鶴御影校「めぐみ・めぐる 神戸食卓講座」。
神戸を拠点とする企業の「食」のエキスパートと、白鶴酒造の「日本酒」のエキスパート。
プロフェッショナルたちの知見の協奏に触れて、毎日の食生活をより楽しむ方法を発見するシリーズです。
この日に開催した第1回のご案内ページ: 「この料理に合わせるのはどっちだ?」
◆レビュー目次
第1回 「舌と脳でマリアージュを味わう」(UCCホールディングス株式会社)
第2回 「脇役 × 脇役=結果は想像以上!」(カネテツデリカフーズ株式会社)
第3回 「お酒ちびちび、フォンデュに唸る」(六甲バター株式会社)
第4回 「大変な時こそ、おいしいものを食べよう」(神戸市消防局/エム・シーシー食品株式会社)