【夏酒・夏マグロ・畳の肌ざわり】職人さんに教えてもらう、日本の夏の味わいかた。

テーマ3.職人

いい畳は、時を経て飴色になりゆく。【畳】

大森:畳の作りって昔から大きく変わっていないと思うのですが、畳屋さんの技術は、もう体系化されているんですか?

伝承はもちろんありますが、やっぱり経験値は大きいですね。畳表でいえば、い草も植物ですから、根っこは白くて、先の方はネギと同じような感じで先は枯れています。それらを除いて、極力長く、い草の真ん中の緑色のところを選別をして織り上げる。そうすると時を経て、綺麗に焼けていくんです。いい畳は、ちゃんとやっぱり飴色になりゆくんですよね。

大森:日に焼けるって、なんだかイケナイこと、申し訳ないことだと思っていました。

くらしの実用品は、使っていただいてナンボですから。使いこんでくださった証。それがムラなくきれいに飴色になっていると、ああ、この畳はいい仕事させてもらったんだなぁって思います。

生きざまを、見抜く。【マグロ】

大森:マグロは、さばく技術はさることながら、マグロそれ自体のおいしさありきですよね。目利きってどうやって会得していくんですか?

先ほどお話したとおり、マグロの質って産地もあるにはありますが、要はその個体がどうか? なんです。だから、経験を積むほかない。セオリーはあります。魚体はラグビーボールみたいな形がいいとか。尻尾の肉質とか、腹が擦れてないかとか。でも、最後は「このマグロだ!」というイメージ。

大森:同じ港に揚がったマグロで、個体の差はどこからくるんでしょう?

主には食べ物じゃないですかね。エサ。からだは食べたもの(と運動)でできているというのは、ヒトだけじゃなくて、マグロもそうなんです。天然マグロは広い海を回遊しているから、それぞれがどこで何を食べてきたかはバラバラ。例えば、サバだと脂がしつこくなりやすいし、イカとかあっさりした魚を食べてきただろうマグロは上品な味がします。
エサの影響は、養殖マグロで顕著ですよ。青魚ゆえの生臭さとか。昔、ある国の養殖マグロを輸入し始めたときは、さばいてみたら、やたらとニンニクの臭いしました。

科学的になればなるほど、行き着くところは、人智を超えた世界。【日本酒】

大森:差といえば、日本酒の原材料は米ですが、お米は、その年その年で差は出てくるんですか?

酒造りでは、去年と今年と一昨年では、米の性質がまったく違います。溶けやすさ、香りの出やすさ、甘みの出やすさ。米の味がそのまま寄与するのではなくて。そもそも、日本酒を飲んで、お米の味しないでしょ。

大森:たしかに。お米からできてるのに、お米を噛みしめたときの甘みとか、日本酒から感じません。

原料の味とできあがりの味がこれだけ異なるお酒は、世界でも稀なんですよ。例えば、お米には存在しない酸味や旨味が、日本酒にはたしかに存在する。微生物のはたらき、発酵技術の賜物です。

大森:その発酵技術(お酒造りの技術)を、伴さんは杜氏としてどうやって職人さんたちに伝えていらっしゃるんですか?

我々は、できるだけ技術的に、言葉で、数値で話をしようとアプローチしています。「俺の背中を見て学べ」だけでは、やはり技術の伝承がしにくいので。後進に「酒造りとはこういうものだ」と書き物にして伝えるイメージで。

大森:「伝える」ことへの覚悟。そうした中で、例えば、経験や勘に勝てない場面は出てこないですか?

最終的にはそこなんですよね! 科学的になればなるほど、そのアプローチだけではたどり着けない経験とか、幸運を味方につけるとか、人智を超えた世界に入っていかざるを得ない。だから、若い奴に言うんです。「気持ちを込めて、手作業をするときも気持ちを込めなさい。その気持ちが手から米に伝わる。米からお酒に伝わる。そして最終的に、このお酒を飲んだお客さんの心に届くはずや」と。そういうときに一番いい酒ができると、僕は思っています。

テーマ4.敬意

商売を「させてもらっている」感覚。【マグロ・日本酒・畳】

人智が及ばない世界は、僕も存在すると思います。ゆえに、対象(マグロ)への敬意というか。ていねいに取り扱うし、例えば、僕はセリ場でマグロをまたぎません。別にまたいではいけないという決まりはないし、またぐ人もいてはりますが、僕はそうやってする近道はマグロに対して失礼な気がして。そこは迂回しましょうと。
黒門市場の年中行事に、四天王寺で行う「魚施餓鬼法要会(さかなせがきほうようかい)」というのがありまして。海の恵みに感謝して食用となった魚の冥福を祈る、魚供養ですね。商売させてもらっている、この商売で食べさせてもらっている、そんな感謝の気持ちを捧げるんです。

我々も、酒造りのはじまりの秋と終わりの春に、お酒の神様をまつる神社(松尾大社・梅宮神社・弓弦羽神社)に毎年参拝しています。そうそう、京都には、微生物を供養する菌塚というところもあるんです。

日本は八百万の神の国ですから、いろいろなお仕事でその対象を祀り、供養する(感謝を捧げる)文化があるんでしょうね。い草を祀っている神社もありますよ。

テーマ5.堪能

目の前にあるひとつひとつが、愛おしい。【日本酒・マグロ・畳】

大森:今日は、前田さんがつくってくださった畳の上で、魚丸さんの夏マグロのお刺身(分厚い!)を頬張り、白鶴さんの夏季限定のお酒(白鶴 大吟醸 生酒)をぐいっといただきながら、お話を伺いました。
皆さん、受け継いだもの(日本酒・マグロ・畳)に対する誇らしさもさることながら、今ここの目の前にあるご自身の商品に対して、愛情が溢れんばかりというか、溢れだしているというか。
最後に、「ここに惚れてまうねん(いやむしろ、惚れてもうてんねん)」なポイントを教えていただけますか。

日本酒ならではの発酵技術、発酵文化ですね。例えば、ビールの味は、麦芽とホップで決まります。ワインの味は、ブドウで決まります。でも、日本酒は違う。私は「大吟醸のABCD」と呼んでいるんですが、よい大吟醸は4つの要素を備えていて。「A: アミノ酸が少なくて雑味がない」「B: ブドウ糖がしっかりあって甘みがある」「C: カプロン酸エチル(香り成分)がじゅうぶん高い」「D: ダメな味や成分がない」。こういったお酒としての出来栄えは、原料の酒米だけ見ても予測しきれないんです。お米と微生物がむすびついて、発酵して、お酒になってはじめて、「今年の年産(のお米)は、こういうお酒なのか」とわかる。そして、1番あたらしい年産のお酒を最初に楽しめるのが、この夏のシーズン。若々しさとともに、ぜひそういった目でも楽しんでいただけたら!

天然のマグロって、赤身と中トロと大トロではっきりと味がわかれているんです。色合いも、赤身は深みがあって、中トロはピンクと赤のグラデーションで。養殖だと、どこの部位でも、味も色合いも似たり寄ったりなんですが。
あと、さっきお二人も言ってくれはったけど、天然は、醤油をつけなくても食べられるんですよ。雑味がないから。食感も、口の中で粘り気があるというか、肉質がいい。それを楽しんでいただくためにも、刺身は分厚めに切るのがおすすめです。みなさん、薄くして食べますけどね。もったいないからって。
この本物のマグロの味を、まずはこどもたちに食べてほしいと思ってます。こどもたちに「あそこのマグロやないと嫌や」って思ってもらうって、すごい大事やなって。子々孫々までというか、つなげていくのが僕らの商売やし、「おいしい」を囲む団らんの笑顔、それを求めてやってるみたいな感じです。

い草の畳表でいうと、ふつう、畳1枚あたり4,000〜5,000本のい草が入っています。良いものになってくると10,000本。2倍入っているんです。この会場の畳で7,000本くらいかな。い草の詰まり具合で、触わったときのボコボコボコッのメリハリが変わってきます。ボコボコの山と谷がくっきりなっているのが、それだけたくさんい草が詰まっている証で、自分で言うのもアレなんですけども、惚れ惚れしますね。
ほかにも、い草の産地(国産/中国産)や芯材(畳の中身の素材)の種類、畳を敷くうえではたくさんの選択肢があります。なんだか間取りの絶滅危惧種に近づいてきているかのような和室ですが、「畳の部屋いる? いらない?」の二項対立ではなくて、畳の手触りの違い、座り心地の違い、お手入れのしかたなど、「どの畳にしようか」と選ぶたのしみを持ってもらえるような、そういうところからお伝えしていきたいなと思っています。


【編集後記】
じつはこの対談、海辺で予定していたんです。しかし、二転三転の天気予報の末に、当日はあいにくの空模様。急きょ、コミューン99での開催となりました。海辺の会場に敷く用に、前田さんからレンタル畳をお借りすることしていたのですが、なんとなんと前田さん、この日のために新しく畳をつくってくださっていたんですって! それだけでもびっくりなところ、「新しい畳の香りをぜひ海で、お酒とマグロを新しい畳の上でっていうところを狙ってたんですが……」と対談のなかで初めてそれを明かすという控えめさ。「僕は説明が下手なんですけど、『感じてもらう』から始まる部分ってやっぱりあると思うので、そういう機会をいっぱいつくっていけたらなと思っています」とおっしゃる姿に、職人さんの“背中”を感じました。


ザ・夏マグロ対談 ― 2018年、夏。
DEMOくらしライター・やすかわのりこも、「夏」を教えてもらいました。彼女が見た夏の三角関係とは。

「時をこえ 親しみの心をおくる」
白鶴酒造株式会社
http://www.hakutsuru.co.jp

江戸幕府第8代将軍吉宗の時代からずっと、日本一の酒処・灘五郷でお酒造りを続けてこられた白鶴さん。
対談当日、マグロに合わせてお持ちくださったのは「白鶴 大吟醸 生酒」(商品ページ)。
夏にぴったりの爽やかな味わいで、8月までの夏季限定商品だそう。

「子どもたちに、孫たちに、おいしいまぐろを届けたい」
株式会社魚丸商店
http://www.uomaru.co.jp/thought/

昭和10年開業のまぐろ専門店。
丸山さんが目利きしたマグロは、日本全国、ホームページからお買い物できます。
もちろん、黒門市場の店頭でも。お店では、新鮮なマグロをその場でさばいてくださいますよ!

「ていねいに暮らすを、たたみから」
株式会社前田畳製作所
http://www.maeda-tatami.com/

対談会場「コミューン99」の畳もあつらえてくださった畳屋さん。
先日、前田さんに直接ご指導いただいて、コミューン99の大掃除を行いました。
レポート記事: 編集部の畳を上げての大掃除 〜おうちでできる、畳掃除のしかた〜

執筆者プロフィール

大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
大森ちはる(神戸市在住・1982年生まれ)
夫とひよこ(娘・4歳)と3人暮らし。2017年春、新卒以来10数年勤めたシステムエンジニアの仕事を離れました。機嫌よく気前よく、生きたい・書きたい・働きたい!