文:岩田かなみ 画像制作:十倉里佳
「かなちゃん、今もしよかったら・・・」
仕事をしてたらお義母さんが晩酌の一式を持ってきてくれた。手にする瓶は陽だまりのシュノーケル。
私が去年のお盆に持ってきたものの1つだ。
白鶴酒造の「別鶴」3種セット。
日本酒を手土産にするのは初めてだった。
それまで日本酒は、相手の好みや料理、酒器、シチュエーションなど、嗜むためのマナーがあって、なんとなく飲みやすいか、口当たりが優しいかどうか、くらいしかわからない私には踏み込んではいけない領域のような気がしていた。
同じくして、嫁姑の関係についても、良い関係作りのマナーがあるような気がしていた。
今どき古いかもしれないけど、お正月には先に旦那の家に挨拶に行くとか、マイエプロンを持っていくとか、旦那を持たせる気を利かせたコミュニケーションとか、先生がいるわけではないけど、どこからか聞こえてくるお作法を守れる自信がなかった。
マナーを知らないものは責任が持てない。だから距離を置くようにしていた。
去年、不意に訪れた台所での乾杯に、そのボーダーよりも‟お義母さんと晩酌したらどうなるんだろう”と好奇心が勝ってしまった。
そこで、白鶴酒造さんに教えてもらい選んだ手土産が別鶴。
はやる気持ちで渡したものの、夏がピークの農家でゆっくり飲みかわすタイミングを逃してしまった。
そこからしばらく、また突然に訪れたお義母さんと晩酌。
机の上に、陽だまりのシュノーケルと自家製の白菜の漬物、お節の蒲鉾や煮物を並べていく。
「乾杯」
小さめのガラスのお猪口を近付ける。
「へぇ、ちょっと酸味が効いてるんだね」
お義母さんは少し珍しそうに、白鶴酒造の若手商品開発プロジェクトが開発した新感覚の純米酒を一口、二口と味わう。
「ホントですね。おつまみが進みます」
天然の冷蔵庫で良く冷えたつめたさがつんとした酸味を際立てて口の中に広がる。
不意に訪れた晩酌タイムにやっぱりまだ少し背筋がピンとしてしまう。
「どんどん飲みな~」
私のお猪口が空くたびにお義母さんが注いでくれて、私も注がなきゃと思うのだけど、お義母さんは‟いいよ”と手酌をする。
‟こういう時「嫁」という立場はどう振る舞うべきなんだろうか?”
そんな気持ちを頭の片隅に巡らせながらも箸が進む。自宅で漬けた漬物は、白菜のみずみずしさが残っていて、塩味が押さえられた素朴な味がする。居酒屋のものとは全く違うその優しさと日本酒のマリアージュに少しずつほぐされていく。
小さいお猪口が何杯進んだんだろうか。
この辺では三日とろろって言って、三が日にとろろを食べることや親戚の家から集まる食卓の上のみかんや蒲鉾のことなど、何を話したかも覚えきれないくらいの他愛のない話しと共に時間が過ぎていく。
おつまみでお腹がいっぱいになったころには、瓶が半分以上空いていた。
‟あれ、晩酌ってどんな時間なんだっけ?こんな感じで良かったのかな…”
「じゃあ、そろそろ私はお風呂に入って寝るよ」
「はーい、おやすみなさい」
お義母さんが優しく部屋を去る。
お義母さんとの晩酌タイムは、思っていた以上にゆるくて、日常の延長で、でも、いつも息子である旦那に向きがちのお義母さんが、私との2人きりの時間を過ごしてくれたことが嬉しかった。
何度か訪れて少しずつ和らいだつもりだけど、嫁と姑という関係の正解と不正解はまだよくわからない。
陽だまりのシュノーケルのHPに漬物やかまぼことの付け合わせはないかもしれない。でも、マナー通りに準備ができていなかったとしてもその時は訪れるし、それで良いのかも。
ボーダーを超えたその先の時間を少しずつ味わいながら手探りをする距離感をもう少し続けてみたい。
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