オヤジとポンシュ。 vol.02

十有五にして酒を憎む、三十にして知る、四十にして戯れる、五十にして父に順う。

文:中埜久仁子

うちのお父さんは、大酒飲みだった。過去形なのは、お酒を断ったからだ。
父はお酒を独りで飲む。独りで飲んで独りで酔う。酔えば酔うほど暗~くになり、しまいには怒り出す。
子どもの頃、だいたい怒られるのは私か弟だった。
「お父さんがお酒を止めてくれればよいのに」と毎日願っていた。

そんな私も大人になり、会社員なってからお酒を飲むようになった。私のお酒は、明るく陽気なので、会社のおじさんたちに評判になり、いろいろな部署から宴会に呼ばれた。
私はみんなで飲むお酒が好きだ。「お父さんに似なくてよかった」と、本気で思った。
会社勤めを長くしているうち、会社員として、父と自分を重ねて考えることが多くなった。

そんな頃だろうか、父を誘って二人で飲みにでかけるようになった。
父を尊敬できるようになり、感謝できるようになったのだと思う。
ミナミやキタで美味しいお酒を飲ませてあげた。
1ショット1200円の吟醸酒を遠慮がちに、でも美味しいそうに飲む姿は今でもはっきり覚えている。

私と父のお酒の好みは一緒だった。フルーティな味の大吟醸。ちょっと高いがとっても美味しい。

父にお酒を断つ転機が訪れたのは、2年半前の年末。実家に帰省していた時に、酔った父と口論になり、弟も交えて大げんかになった。あまりの激しさに、孫(私と弟の子ども)も泣き出した。泣いた子どもたちを見て弟がキレた。父に一喝し、喧嘩はおさまった。
その後、弟は何度か実家に通って父を説得し、父はお酒を断った。酔って怒られた回数の一番多い弟が、父のお酒を止めさせた。

父は独りで飲むお酒より、家族(特に孫)を選んだ。

酒癖がよかった私も年齢とともにお酒がよわくなり、娘に「もうお酒は飲まないでよ! 外飲み禁止」と怒られるようになった。昔のお父さんそっくりだ。私も父のようにきっぱりお酒を断つ日が来るのだろうか。


「オヤジとポンシュ。」シリーズ >>>