文・画像制作:十倉里佳
立ち寄ったスーパーで目当てのカップ酒を見つけ、おもわず声がでた。レジに向かう早足に合わせて、カゴの中でカチャンカチャンと鳴る音が小気味よい。
帰宅してドタバタと鍋の準備をしながら晩酌の用意にかかる。
このお酒は、熱燗コンテストで金賞を獲ったのだという。さぁさっそく!と、アルミの蓋をめくるその音が耳に懐かしく響いた。大好きな祖父が、生前よくカップ酒を呑んでいたっけ……。外した蓋をテーブルに置くまでの一連の音と重なるようにして、祖父の所作が思い出されつつ、指でほんの少しすくって味見してから、ラップをかけてレンジに入れる。
「このお酒、熱燗部門で金賞獲ったんだって。」
コンテストの既定温度に合わせて温度計で測ってみたことなど、晩酌相手の夫にうんちくを話しながら、55度きっちりに温まったお酒をお猪口に注ごうとすると、うまく注げずにだいぶ溢してしまった。
「そらそうなるやろ、カップ酒でお酌する人はおらんと思うわ。」
夫が笑いながらテーブルを拭きつつ、もう片方の手でお猪口を口に運んだ。
夫「カップ酒って安酒のイメージしかないけど、これ美味いわ。鍋と熱燗っていうのも、やっぱりええなー。」
私「うん、なんか、いいね。」
カップ酒というだけで、私にも「ガツンとただ酒臭く、酔うためだけに摂取する安価なもの」な印象があって、これまではあえて手を伸ばしてこなかった。でもこれは、すっきりとした品のよさが温まるとパッと華やかに丸く変化し、鍋をつつきながらの晩酌が鮮やかになる気がした。
あぁ美味しいなぁ。舌と鼻の奥で立ちのぼる香りが目の前の水炊きの湯気と絡んでゆらぐのを見ていると、祖父との記憶もゆらゆらとしはじめる。祖父は、なぜいつもカップ酒だったのだろう?
仕事帰りにひと瓶だけ買ってきたカップ酒を、夕食時にただただゆっくりと、ひとりで寡黙に呑んでいた祖父。酔って饒舌になるわけでもなければ、酩酊している姿も見たことがない。
「オヤジのお酒と博打で昔は相当苦労させられた。」と父がよく話していたけれど、私の知る祖父は週6日、理容師として真面目に働き、酒臭いどころか、いつも石鹸とシッカロールの香りがしていた。
父の話が本当だとして、苦労させた息子が購入した家での同居は、祖父にとってたぶんとても気をつかう暮らしだっただろう。2人の間に見えない壁があることは、私も子どもながらに感じていた。
それでも、夕食は皆と揃って食卓についていた祖父。団らんの話の中に加わることはなくても、私や弟の話はよく聞いてくれていて、一緒に風呂に入った時などに改めて褒めてくれたりしたのがとても嬉しかった。
祖父は透明なカップ酒の中に、どんな景色をみていたのだろう。
自分の中の気まずい空気を薄めるためのなにかだったのだろうか。父との過去に配慮するなら、そもそも晩酌そのものをやめたらよかったのかもしれないのに。
でも、そうしなかったのはきっと意地などではなく、ただ純粋に日本酒が好きだったのではないか。
日本酒好きならきっと色々な銘柄の日本酒をあれこれ試してみたい気持ちがありつつも、カップ酒をひとりでゆっくりと静かに嗜む、いうのが祖父にとっての配慮だったのかもしれない。
あの頃の自分には想像も及ばなかった、大好きな祖父の気持ちに触れた気がした。
知りたかったような知りたくなかったような、ずっと奥のところ。
今日、私が燗をつけたこのお酒を一緒に呑めたなら、どんな話ができただろう。
少しぬるくなったお酒が、クッと喉元を刺激して通りすぎる。
ジワジワと時間差で身体が温まってきた。
鍋の湯気の向こうにお猪口を差し出す、筋張った手が見えたような気がした。
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