粕汁は、関西人のソウルフードかもしれない。

文:内海佳代子

ごはんとお味噌汁のように毎日食べて飽きないものでもなければ、遭難して助かったときに真っ先に食べたいと思うほど魂に刻まれてもいない。
だけど、誰かが一言「粕汁」と口にすると、「そうそう、粕汁な〜!」と話はおおいに盛り上がる。
このはしゃぎようからするに、粕汁は関西人のソウルフードなんだと思う。

みんなの家では、いったいどんな粕汁をつくっているのだろう。
編集部メンバー宅の「きょうの粕汁」を覗かせてもらった。

家庭の数だけ味がある。
それでも、大根・人参・コンニャクは必須みたい。

  • 粕汁01:鯨の皮に、柚子の皮■きょうの粕汁
    《酒粕》白鶴酒造
    《出汁》
    《調味料》合わせ味噌
    《具材》ブリ 大根 人参 ゴボウ きのこ類 うす揚げ コンニャク
    《薬味》青ネギ 一味 柚子の皮
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》稲美酒造 いただきもの
    《具材》鮭 豚肉 鯨の皮 里芋 ちくわ


    《伝承》母方の祖母(神戸市西区出身)。冷蔵庫にあるもので美味しく作る。
    《時期》寒くなって旬の根菜や安くて美味しそうなブリがあったら

  • 粕汁04:キムチで味変■きょうの粕汁
    《酒粕》大吟醸酒粕
    《出汁》
    《調味料》味噌 塩
    《具材》ブリ 大根 人参 白ねぎ しめじ 木綿豆腐 コンニャク
    《薬味》キムチ しょうが(家族の嗜好)
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》手に入ったもの
    《具材》厚揚げ 太ねぎ


    《伝承》義母(鹿児島出身)。義母は紅鮭をつかう。私はブリ。白ねぎや太ねぎを足すのは私の好み。

  • 粕汁03:プラス白味噌・味醂■きょうの粕汁
    《酒粕》白鶴酒造
    《出汁》ほんだし 具材からの出汁
    《調味料》白味噌 出汁醤油 味醂
    《具材》鮭 大根 人参 ごぼう しいたけ うす揚げ コンニャク ちくわ
    《薬味》青ネギ 七味唐辛子
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》こだわりはない
    《具材》白ねぎ


    《伝承》母。祖母は料理が苦手だったので母のオリジナル。
    《時期》寒いとき

  • 粕汁05:子どもの味噌汁を取り分けてから■きょうの粕汁
    《酒粕》灘菊酒造
    《出汁》鰹と昆布(自然派の顆粒)
    《調味料》味噌
    《具材》豚 大根 人参 しめじ
    《薬味》青ねぎ
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》いただきもの
    《出汁》いりこ
    《具材》鮭 里芋 豆腐 うす揚げ コンニャク


    《伝承》オリジナル(神戸市出身)
    《時期》寒い時期は登場回数が増える。子ども用の味噌汁を小鍋に取り分けたあと、酒粕をとかす。

  • 粕汁06:プラス白菜・さつまいも■きょうの粕汁
    《酒粕》山田の鶴
    《出汁》煮干し
    《調味料》醤油
    《具材》鮭 豚バラ 大根 人参 しめじ 白菜 さつまいも うす揚げ
    《薬味》青ねぎ
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》こだわりはない
    《具材》コンニャク


    《伝承》母(山形出身・大学入学とともに関西へ)
    《時期》寒くなって温まりたいとき

  • 粕汁02:ゴマ油でコクづけ■きょうの粕汁
    《酒粕》白鶴酒造
    《出汁》鰹と昆布
    《調味料》味噌
    《具材》豚 大根 人参 ごぼう 里芋 コンニャク
    《薬味》青ネギ 七味唐辛子 胡麻 ゴマ油
    ■このほか、わが家の定番
    《酒粕》盾野川 大信州
    《具材》鮭 鮭のアラ ブリ


    《伝承》母。うろ覚えの母の味と外で食べた味を混合してアレンジ。
    《時期》とくに寒い夜。寒くなってきたなと思ったら、よし明日は粕汁にするか! と決める。

  • 粕汁07:初めての粕汁■きょうの粕汁
    《酒粕》保命酒の花
    《出汁》具材から(豚バラ)
    《調味料》味噌
    《具材》豚バラ 大根 人参 ねぎ 白菜 えのき茸
    《薬味》青ねぎ 七味唐辛子


    《伝承》オリジナル(東京都出身)
    《感想》味醂粕だからかな……甘くなった! 食べながら体がポカポカしてきた。おいしかったし家族にも好評だったので、冬の定番料理にしよう。

わたしは、母の味をベースに、酒粕によって味付けを変えています。

こうして見てみると粕汁ってお家カレー(おかんカレー)の様だなと思う。 ほぼ同じ具材なのにそれぞれの家庭によって味が違う。 この味の違いって、大きく違うわけではない。 しかし、ご近所からいただいたお寿司を一口食べるとどこのお宅からいただいたか聞かなくても「○○のおばちゃんのお寿司」とわかるように確かな違いがある。

それぞれの家庭で受け継がれたり、そこから家族の嗜好で変化していったり、レシピを見ないで作る家庭料理には○○らしさを感じる。 それが、懐かしさやホットした気持ちにさせるゆえんだと思う。

我が家では、母の味の粕汁と大吟醸や純米酒の酒粕を使ったオリジナルの粕汁を作っている。 酒粕によって出汁や調味料を変えているのだけれど、自分の舌で味見をしながら作る家庭料理そこには、共通の私らしさがあるのかもしれない。

  • 粕汁08−1:塩鮭は欠かせない■きょうの粕汁
    《酒粕》日本盛
    《出汁》鰹と昆布
    《調味料》味噌
    《具材》塩鮭 豚肉 大根 人参 厚揚げ コンニャク
    《薬味》青ねぎ 七味唐辛子


    《伝承》母(淡路島出身)。塩鮭と豚肉を入れるのが母流で、私も必ず入れる。手に入れば、塩鮭のアラを使う。
    《時期》寒くて体の芯から温まりたいとき

  • 粕汁08−2:大吟醸の酒粕は塩味で■きょうの粕汁
    《酒粕》龍力米のささやき
    《出汁》昆布
    《調味料》
    《具材》塩鮭のアラ 豚バラ 大根 人参 白ねぎ 里芋 厚揚げ コンニャク
    《薬味》青ねぎ 七味唐辛子


    《伝承》オリジナル(神戸市出身)。無ろ過の酒粕のときは昆布出汁で、塩鮭のアラがあれば塩で味をととのえるくらいにしている。
    《時期》酒粕が手に入ったらつくる

  • 粕汁08−3:純米酒のときはその日の気分の出汁をとる■きょうの粕汁
    《酒粕》冨久錦
    《出汁》鰹と昆布
    《調味料》味噌 薄口醤油
    《具材》塩鮭 豚コマ 大根 人参 太ねぎ 厚揚げ コンニャク ちくわ
    《薬味》青ネギ 七味唐辛子


    《伝承》こちらもオリジナル。純米酒の酒粕のときはその日の気分で、昆布出汁で塩味 or 鰹と昆布の出汁で味噌味。
    《時期》酒粕が手に入ったらつくる


《編集後記》イッツ・ザ・酒蔵の粕汁。
DEMOくらし共同発行人の白鶴酒造さんのFacebookページに掲載されているこちらの粕汁、この冬に社員食堂で出されていたものだそうです。冬季限定で1ヶ月に数回、粕汁の日があるのだとか。
寒い冬。家でのごはんどきも、お味噌汁も豚汁もおいしいけど、粕汁だとちょっとテンション上がりますよね。いいなぁ、飲んでみたいなぁ……でも、社員食堂は一般非公開なんですって。残念。