【現場レポート】しめ飾りを綯(な)う。


撮影:川本まい 文・画像制作:十倉里佳  

銀座のど真ん中、ビルの屋上にある農園

このDEMOくらし日本酒の共同発行人である白鶴酒造株式会社。銀座にある東京支社の屋上に、広さ約110平方メートルの「白鶴銀座天空農園」はあります。2007年当初はプランターから始まったというこの農園で栽培されている酒米「白鶴錦」の稲わらを分けていただいて、今回しめ飾りを作りました。

実は私。編集部に出入りするようになって、この農園の存在を知ったときから、心密かに「白鶴錦でしめ飾りを作ってみたい」と思っていたのです。というのも数年前、神戸市内で開催された地域の年末イベントで、高齢者さんにしめ飾り作りを教わって以来、年末に自作することにすっかりハマってしまっているから。周囲を田んぼに囲まれた実家で育ち、幼少期の記憶を辿れば季節の移り変わりとともに稲の成長の様子が当たり前のように思い浮かぶ……とはいえ、しめ飾りを手作りするのはすっかり大人になったその時が初めてでした。元々、手を動かして何かをつくる、いわゆる手仕事が好きな私。あまりの面白さにそれ以降は、お米を作っている義実家に稲わらを分けてもらって作っています。

勇気を出して言ってみた

とはいえ、稲わらの入手先は既にあるのに、わざわざ銀座から稲わらを送ってもらってまですることではないよな、とこれまでは遠慮(?)する気持ちがありました。日本酒に特別な興味は持っていなかったし、そもそも下戸なのであまり呑めるわけでもない。

ところが。この編集部で日本酒のコンテンツ制作に関わっているうちに、不思議なものでどんどん日本酒に興味が沸いてくるではありませんか。例えるなら学生時代、人気ナンバーワンの先輩に恋してしまったような感覚。最初は「ふーん、確かにかっこいいけど好みじゃないわ」なんてスカしていたものの、委員会とかで一緒に仕事をしているうちに「あれ?なんだか……」って、相手のこともっと知りたくなってしまう、あのパターンに似ているのかも。モジモジしつつ、えいやぁ!と勇気を振り絞って「銀座の稲わらでしめ飾りを作りたいんです!」と、告白するような気持ちでお願いしたのでした。

稲わらが編集部にやってきた!

10月末に手作業で丁寧に刈り取られた稲は、稲架掛け(はさかけ)という方法で天日干しされ、その間に米粒には栄養が蓄えられるそうです。足踏み脱穀機で脱穀したあとの稲わらが、編集部のある神戸のコミューン99に届いたのは11月中旬でした。

丁寧に梱包された荷を解くと、長さ110センチほどの稲わら。ぷーんとよい香りが鼻をくすぐると同時に、ふと昔のことを思い出しました。小さい頃、稲刈り後の田んぼでよく鬼ごっこをしたっけ。鬼から必死に逃げているうちに、もたついた足が、突き出た稲の根元に引っかかって地面に突っ伏したこともしょっちゅう。束になった根元は結構鋭くて「痛ったぁ!」と声を上げながら、息切れした喉と鼻の奥でこんな香りがしていたなぁと、懐かしい気持ちに。

一緒にいた編集部メンバーは「普通の稲よりも香りが強い気がする。ちょっとヨモギっぽいような。」と言っていました。銀座で稲刈りをした方たちは、この香りにどんなことを思い出したり感じたりしたんでしょうか。

そうそう、当初はこのコミューン99の入り口ドアに飾る分だけを分けていただけるように伝えたのですが、可能であれば天空農園の分もお願いしたいです、とのお返事があったのです。えっ?
憧れの先輩をまずは映画デートに誘ってみたら、妹同伴だった……そんな感じでしょうか?(いや違うか)なんだか一気に緊張してしまいましたが、ここで引くわけにはいかないので気合を入れて臨みます。

まずはきれいに整える作業から

というわけで、しめ飾りの製作に取り掛かります。まずは稲わらをきれいに掃除する作業から。
稲わらの根元についている「ハカマ」といわれる部分を剥いて、整えます。

ここ数年の世情もあって、会社のメンバーとも普段はオンラインで話すことの方が多くなってきました。画面越しとはいえ、かなり意識的に濃密なコミュニケーションが取れているように個人的には感じていますが、こんな風に同じ場所で顔を合わせて作業をしてみると、普段とはまた違った話で盛り上がったのでした。

白鶴錦の貴重なお米が残っていました。足踏みの脱穀機を使って約1700株もの稲を全て手作業で脱穀するため、こんな風に少し残ってしまうこともあるそう。大事に取り分けて、しめ飾りの装飾に使うことにしました。

(余談ですが、約1700株もの稲が収穫できたと聞いて、私は相当な量の日本酒が出来るのだろうと思っていたのです。ところが昨年度、同じくらいの収穫量から出来上がった日本酒は、なんと500ml瓶で40本のみだそう……)

すっきり、きれいになりました。
1本1本、地味な作業ではありますが、このひと手間で出来上がりの見栄えが全く違います。面倒くさがりの私だからこそ、これは過去の製作経験から学んだことのひとつ(笑)。
下準備は完了、さぁ、やっとはじまります。

まるで魔法のように

私以外のメンバーは、これが初めての体験だそう。私も一年ぶりなので、お手本にしているしめ飾りの本を見返しながら、感覚を取り戻していきました。左右の手をこすり合わせて、縄を綯います。
最初はわらをうまく縒(よ)るのが難しくて、縄を作っているつもりが”1本の太いなにか”になってしまったりもしますが、コツをつかむと少ない力できれいに縒りあわさった縄が出来るようになります。

こんな感じになります。
ザッ、ザッ、と音をさせながら縄を綯う時間がとても好きです。感覚を取り戻すまでは、頭の中が思考でいっぱいになりますが、そのうち無心になってくると、手元から縒り合わさった縄がまるで魔法のように現れてくる瞬間があります。無意識のようでいて、確かに私が創り出しているという実感が何とも心地よいのです。

横で仕事をしていたメンバーも、集まってきました。

ついにはカメラマンも!

メンバーは皆、複業をもっている人がほとんど。いろんな場所でいろんな顔を持ち、普段からやっぱりそれなりに忙しくはあるのだけれど、器用にこなしている姿に、生き方が不器用な私は感心するばかり。ついさっきまでパソコンのキーボードをカチャカチャいわせていたと思ったら「なになに?私もやってみたい!」とニコニコ寄ってくる姿に「あぁ、こんな風に素直に全てを楽しんでいるんだなぁ」と、改めてその切り替えのスムーズさや人柄に魅力を感じずにはいられなくなるのでした。

一見どれも同じようにできたようにみえても、よーくみるとそれぞれ個性的で。
しなやかな1本、ギュッと繊細な1本、ゆるやかに長い1本……


(ふふふ、フォトグラファーの彼女のワイルドな一面を垣間見たぞ!)

いままでは一人で黙々と作っていたので気付くことが出来なかったけれど、こんなにも個性がでることは新鮮すぎる発見。一緒に作っていたDEMOくらし発行人の湯川がいいました。

「これ、うちの採用試験にしようかな!」

それ、いいかも!!!笑

ようやく完成!

しめ飾りは地方によって様々な形があり、それぞれに意味や願いを込めて作られます。

年末のスーパーなどに並んでいるしめ飾りが、地元(静岡県西部)の形状とは全く異なっているのを見かけた時は、とても驚きました。冒頭のイベントで教わった形も、スーパーのそれとはまた違っていて、インターネットや本で調べるうちに、こんなにもたくさんの形やいわれがあるのを知ったことも、私の創作意欲が掻き立てられて、しめ飾りつくりにハマった理由のひとつだったりします。
さて、今年はどんな形にしようかな……迷ったのですが、やはり白鶴酒造のシンボルマーク「鶴」を作ろう!

さぁ、本体です。
稲わら100本を3束に分けて綯い合わせます。

まずは2束で綯ってから、もう1束を絡めていくようにします。

……と。皆でワイワイと作っていたら、予定時間はあっという間に終了。
最後まで一緒に作れたらと思っていたけれど、なかなか時間を合わせることが出来ず、残りは自宅に持ち帰って作りました。


(天空農園と、コミューン99の分、2つ)

この形は「鶴」とも「鶏」とも言われているそう。足を長めに、赤い水引を編んで頭を赤くして、より鶴っぽさが出るようにアレンジしてみました。作り始めの頃は、橙や南天、松などで彩ることも楽しかったのですが、数を重ねるごとにしめ飾りの形そのものに魅力を感じるようになってきました。とはいえ、天空農園に飾るのだから、より神聖な役割をもたせたい気持ちもあって、半紙で作った紙垂(しで)をつけて、完成!

その存在を感じるために

「白鶴錦でしめ飾りを作ってみたい」という企画を編集部にあげた際は、ただただ「作りたい」の自己満足だけが前面にあり、それ以外に何がしたいのかと聞かれても答えることが出来ずにいました。

私は1970年代生まれ、団塊ジュニアと呼ばれる世代です。
芸術大学を目指して画塾に通っていた頃までは、鉛筆や絵筆など、自らの身体を使って感覚を外に出して表現し、それ自体も物体として目の前に確かに存在するのが当たり前の世界にいました。でも、大学を卒業するころにはパソコンで作品を作る授業があったり、卒業後に就職した店舗設計の会社では、手書きの図面がどんどんCADデータに移行していくような時期にありました。

自分がつくったものの存在が、どこにあるのか。身軽になっているようで、どんどん空になっているような気さえする。加えてこの数年で、オンライン化がますます加速して、人の存在すらも薄くなっているような……。

編集部に関わるようになって、下戸の私が毎晩の晩酌を楽しみにするようになったことに、自分でも驚いています。どんなアテと合わせようか、味そのものも楽しんではいるけれど、やはり日本酒に惹かれてしまう理由は、それに関わる人や物語にあるのだけれど、またしてもそれは、私にとって存在を感じにくいことだったりするのです。

今回その先をあまり考えずに、まずは作ってみることから始まったのですが、後半ひとり静かに縄を綯っている時にふと頭をよぎった思いがありました。

いつの間にか好きになっていた先輩。もっと話したいし、もっと知りたい、の次にあるもの。
私、手を繋ぎたかったんだな、と。

キリっと冷えた元旦、銀座の天空農園に差す朝日に照らされた鶴の紙垂が、ひらひらと冷たい風に揺れる姿を想像しながら、私はお屠蘇をいただくことになりそうです。

たくさんの方の確かな手仕事と思いによって、来年もこの農園が黄金色に染まり、醸された日本酒がたくさんの人の暮らしを彩りますように。

執筆者プロフィール

十倉里佳
十倉里佳
とめどないおしゃべりと空想で忙しい頭の中を整理すべく、描いたり書いたり。
静岡県出身、二児の母。ニホンシュ、はじめました。