恋すること、お酒に酔うこと

文・画像制作:川本まい

 「お前には、お酒を飲むやつの気持ちは分からない」

お酒が飲めない私は、そう言われたことを忘れられず、日常生活のふとした時に思い出してしまう。ある時、親しい人が「飲みはじめたら、酔いが覚めるのが怖いんだよね」と話してくれた。そんな言葉を言わせるほどに人を魅了するお酒の力が気になったが、下戸の私は味わうことができない。だからずっと「お前には分からない」と言われているような気がしていた。

「恋せぬふたり」というドラマを見ていて、その時のことをまた思い出した。
恋をしない人が、世の中の恋する人達について共感できないこと、そして自分が共感されないことを思い悩んでいた。大人になったら分かるだろうと思っていたことが大人になっても分からない、挑戦してみても分からない、多分この先も知ることはない感覚なのだ。恋もお酒もたくさんの人を魅了しているように思う。
だからもし、お酒に酔うことが恋することと似ているとしたらどうだろう?

恋をしていた学生時代、考えるより先に勝手に体が動き回って仕方がなかった。一度も話たことない人を好きになり、いきなり教室からその人を呼び出したかと思えば連絡先を聞き、夜に突然電話をかけた。相手のこともほとんど知らないし、何を話して良いかもわからない。「なんとなく、かけてみただけ」という言葉を残し、また明日と電話を切るのだ。

社会に出てからはどうだろう。学生の時のように、変な行動をすることは(きっともう)ないけれど記憶をなくすことがある。気になる人とのやり取りを一言一句思い出し、脳内回想がはじまったら最後、朝起きて気がついたら会社に到着していたり、いつの間にやら一日が終わっているなんてことがザラにある。

ああもっと、
ほろ酔いでいられたらかっこいいのに。

恋すること、お酒に酔うこと、似ているかもしれないしそうじゃないかもしれないけれど、そんなふうに思えたらお酒を飲む人たちがみんな恋する人達に見えてきた。
「お前には分からない」ずっと離れてきたお酒との距離が縮まっていくのを感じたのだった。