神話と日本酒 vol.01

日本書紀「この神酒は 我が神酒ならず 倭なす 大物主の 醸みし神酒」(奈良・大神神社)

文:野崎安澄

「奈良に行くなら『大神神社』」と聞いても、東京出身かつ下戸の私には全くピンと来なかった。大神と書いて「おおみわ」と読む。関西では「三輪さん」という愛称で親しまれているらしい。が、私の頭に浮かんだのは金髪の「美輪さん」の顔だった…。

調べてみると、由緒正しく歴史もたいそう古く、関西の人々に愛されている神社だった。

大神神社
『古事記』の時代に国造りの神様として、三輪山に鎮むことを望んだ大国主神(おおくにぬしのかみ)。
そのため、古来から本殿をおかず、山そのものがご神体となった。日本最古の神社。大和国、一ノ宮。
大神神社HPより)

そして、日本酒発祥の地としての伝説・神話も持ち、日本酒とも深い関わりがある。

関西に住み始めたことを機に、急に「古事記」に興味を持って、昨年何冊か解読本を読んだ。こちらに住んでみて、ひしひしと「私は(いや、東京かな?)歴史や文化、土地とのつながりを失ってしまっているなぁ」と寂しく感じる。関西の人たちが無意識のうちに持っているその土地や歴史と現在との繋がりの感覚が、本当に羨ましい。

本当は私もそれを感じてみたい。いざ、行かん! 神話の地、大神神社へ!!

旅の道連れ、ピロシキのシキじゃない方、のりちゃんと奈良県桜井へ。

1ページ目:《神話①》杜氏の祖先、たった一夜にして美酒を醸す。
2ページ目:《神話②》この木には、白蛇の姿を変えた神様が住んでいる。
3ページ目:三輪山のご神木でつくられる「しるしの杉玉」。

神話① たった一夜にして美酒を醸す。

高橋活日(たかはしのいくひ)美酒を醸す
大物主大神(おおものぬしのおおかみ)を厚く敬った崇神(すじん)天皇は神に捧げる御酒を造るために、高橋邑の活日(いくひ)を掌酒(さかひと)に任じました。活日は酒造りの杜氏の祖先にあたります。そして活日は一夜にして美酒を醸かもしたと伝わります。崇神天皇8年冬12月卯の日に大神への祭りが行われた後の酒宴で活日は御酒を天皇に捧げて次の歌を詠みました。

「この神酒は 我が神酒ならず 倭なす 大物主の 醸みし神酒 幾久 幾久」
(この神酒はわたしが造った神酒ではありません。倭の国をお造りになった大物
主大神が醸されたお酒です。幾世までも久しく栄えませ、栄えませ。)

崇神天皇と群臣は夜もすがら酒を酌み交わし、祭りの宴を楽しみました。
この故実によりご祭神は酒造りの神として敬われるようになったとされます。
三輪の地は美酒を産み出す酒どころとして人々によく知られていたのでしょう。
三輪の枕詞は味酒(うまさけ)で、額田王(ぬかたのおおきみ)の歌をはじめ「味酒うまさけの三輪」は万葉集にも詠まれました。
大物主大神は酒の神、三輪といえば美味なる酒を古代の人々は想起したのでしょう。
大神神社HPより引用)

この神話でも描かれている通り、かつて、大きな神社では神事のための酒造りを敷地内で行っていたそうだ。そして、それほど大きくない小さな神社でも、村の人々が酒造りをし、神様に供えていたと言う。

神様に供えた酒は、お下がりとして人間が飲み、これには神と人々を結びつけるという大切な意味があった。神様とコミュニケーションする手段の一つと考えられていたそうだ。

そしてその伝統と習わしは、現代にまで静かに続いている。


一の鳥居と呼ばれる大鳥居をくぐり、参道を歩いていくと、境内に入るための二の鳥居の横にたくさんの酒樽が積んであった。「酒栄(さかえ)講」と書かれている。年に一度行われる酒まつりの際に奉納されたものだろうか?

醸造安全祈願祭(酒まつり)
酒造りの神様と仰がれるご祭神の神徳を称えて、新酒の醸造の安全を祈る祭典で、全国の酒造家・杜氏・酒造関係者が参列します。祭典後から醸造安全の赤い御幣と酒屋のシンボル「しるしの杉玉」が全国の酒造家・醸造元に授与されます。
大神神社HPより引用)

他の神社ではなかなか見ることがない大和(奈良)の酒蔵を紹介する看板もある。神社で土地の酒蔵を紹介しているのを見るのは初めてだ。

のり「念のため写真を撮っておこう!」
あずみ「(なんの念のためだろう・・・)」

二の鳥居をくぐり、鬱蒼と茂る森を抜け、拝殿へと登っていく。平日だと言うのに、思ったよりもたくさんの人が参拝していた。御神体が三輪山のため、本殿はなく、拝殿を通して山を拝むそうだ。神様を前にして、「DEMOくらし日本酒」のますますの発展と、関係者みんなの健康と安全を祈る。

拝殿の左奥にある山道をさらに登っていくと、狭井神社へとたどり着いた。そこには「霊泉」があり、万病に効くという薬水が湧き出ていて、古来からお酒を作る人や薬を作る人が水を汲みに来ていたらしい。

のり「飲んでみる?」

殺菌消毒のケースに入っている銀のコップを取り出し、恐る恐る霊泉の水を飲む。

あずみ「なんかすごいことが起きたらどうしよう?」

湧きでる水をコップに注いで、飲んでみる。もちろん何も起きなくて、かつ冷たくて美味しい。

特別な水から初めて醸された日本酒は、一体どんな味だったんだろう? (下戸だから飲めないけど、一口だけなら飲んでみたい)

「一晩でお酒を醸した」なんて、現代社会の常識からはちょっと信じられない。でもそれが神話や物語の醍醐味なのかもしれない。

聖書でもイエス様が一瞬で水をぶどう酒に変える。和歌で活日が「この神酒はわたしが造った神酒ではありません。倭の国をお造りになった大物主大神が醸されたお酒です。」と読んだのも、人智を超えた神様の力が確かに働いたことを、私たちに伝えたかったのかもしれないな。

そんな古代の神話に想いを馳せた。

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《神話②》この木には、白蛇の姿を変えた神様が住んでいる。