日本酒 × 若者たち

解釈の違い。垣間見えた鉱脈。 ~ひとくちに「テクノロジー」って言ってもさ~

構成:桂 知秋

伝統産業でもある日本酒において、「テクノロジー」はどんな関係にあるのだろう? 編集部がこれまでお世話になった酒造会社にご協力をお願いし、少し乱暴なのは承知でテクノロジーと伝統をあえて割合で示していただきました。いただいた理由と結果から探る、日本酒とテクノロジーの関係。


【質問】(酒造りにおいて)テクノロジーと伝統、あえて割合で示すなら?

真っ二つの結果。その奥には?

数字だけみるとテクノロジー比重派と伝統比重派、真っ二つの結果。「テクノロジー 99%」の A 社はこう説明する。「日々変わる条件に対応して継続できるよう革新をつづけて生み出されるのがテクノロジーだとすると日本酒造りはほぼすべてテクノロジ-のような気がする」。

なるほど。確かに私たちの今の暮らしだって、ほぼテクノロジーだ。A 社は現に日本酒造りを支えているテクノロジーを具体的に提示した上で指摘する。「米の田植え、刈り取り、運搬、精米・洗米・蒸のボイラー、酒の 送りポンプなど、今の酒造りはそれらがないと成立しません」。パソコンを使って仕事をしているくせに「アナログ人間なんです」と言ってしまっている自分がちょっと恥ずかしくなる。現実を見つめ、受け入れることって案外難しい。

ではテクノロジーの比重が少ない他の2社はどんな考えでその数字なのだろう。「テクノロジー 10%」の B 社は、「新しい技術が在来技術を完全に淘汰するほど革新的な場合は、もちろん新しい技術へ移行します。薪火でお湯をわかすのではなく、ボイラーが採用されていったのはその典型」と、ここまでは大きい意味で A 社と同じ。ただ、その続きがある。「そのような完全代替を促すような新技術以外に、多数の技術が登場」し、「自 分たちの酒造りに利用する『べき』かどうか、常に考えながらそれらの技術と向き合っています」。

淘汰されたものか、否か。

進化のためにテクノロジーが生み出され、進化し、また新たなテクノロジーが生み出される。スマホは手放せないけど「便利だから」と勧められるアプリに必要を感じず、手が伸びないこともある。スマホもアプリも大きく捉えると ”テクノロジー” だけど、確かに “完全代替を促す新技術” と”それ以外の多数の技術” という違いはあるのかも。

C 社の「売らんがための『知恵?』『工夫?』は全く必要ないと思っています。アルコール添加 (アル添酒を否定はしていません)、炭素ろ過などは『革新』ととらえていないので」というコメントも “それ以外の多数の技術” に着目しているからこそ「テクノロジー 20%」という数字なのだろうと想像した。

淘汰されず積み重なってきた “テクノロジー” と、これから淘汰されるかどうかの過程にある “テクノロジー”。 数字だけ見ると対極に思えた結果も、こうしたテクノロジーの解釈の違いが生み出したものなのかもしれない。 そして、「テクノロジーとどう付き合うか」常に向き合っている姿勢にきっと違いはないのだ。

「伝統はテクノロジーの上に成り立っており、思想のようなものかもしれません」(A 社) 「酒蔵は、常にアップデートされる技術と向き合いながら酒造りをしています」(B 社) 「古いことの良さと現在の良さを合わせてもっと良いものを未来に造ること」(C 社)

三者三様の表現ではあるけど、そこに感じるのはテクノロジーや変化を恐れないしなやかさ。どうやったらそんなふうになれるんだろう。でもきっと、神話の時代から人の喜怒哀楽に寄り添ってきた日本酒という存在がどーんと真ん中にいるからなんだろうな。そんな気がした。