聞き手・文:山本しのぶ
東京・銀座にある白鶴ビル。
その屋上で2007年から、酒米である白鶴錦を育てる「白鶴銀座天空農園」という屋上緑化プロジェクトが続いています。
今回、2020年秋に収穫された白鶴錦の稲わらを使って、神戸にある白鶴酒造資料館に展示する置き畳を作るプロジェクトが実施されました。
日本酒と畳が出会うとき、そこにどんな思いが生まれたのか。
一枚の畳にまつわるストーリーをプロジェクトにご協力いただいたみなさまにお聞きしました。
プロジェクト全体 特別企画:酒米・白鶴錦の稲わらで畳をつくる。
インタビュー
1.(白鶴錦栽培)役立てられて、大事に扱っていただけてありがたいです。
白鶴銀座天空農園 山田さん・福本さん、白鶴酒造広報 大岡さん
2.(畳床製作)どなたが乗っても畳自体のあたたかさを感じていただけるように。
須賀利三商店 須賀茂春前社長
3.(畳製作)日本酒と畳。日常的でもあり、神仏に近づくところにあるものでもある。
岡田畳本店 岡田暁夫社長
白鶴錦の稲わらを使って畳床を製作した須賀利三商店 須賀茂春前社長へのインタビュー
量が多ければたくさん作りたかったですね、一面に敷き詰めるくらい。
ー畳床は普段どれくらい作っていらっしゃるんですか。
須賀さん(以下、敬称略) 毎日毎日作ってますよ、1日100枚くらい。
ー100枚、そんなに! 稲わらの畳って少なくなってるから、そんなに作っていらっしゃるというのはびっくりしました。
須賀 そうですね、少なくなってますよね。そのうち9割は真ん中に発泡スチロールを入れてわらで挟んだもの。すべてわらの畳床は1割くらい。
ーわらの畳床はどのように作られるのですか。
須賀 わらを縦横に何層にも重ねて、間に細かくしたわらを入れて圧縮します。一畳を作るのに32kg使って作って、成形するために切り落として30kgになる。1反から取れる稲わらが大体 400〜500kgくらいで、それで13〜14枚できます。
ー今回、お話を受けてどうでしたか。
須賀 岡田さんから連絡をいただいて、「面白そうだな」と思いました。酒米で畳床を作れるかなというのもあって。今回岡田さんに持ってきていただいて、「柔らかい」と感じました。そういう時は、多めに入れて硬さを確保したりします。それは今まで通りにやりました。ただ、普段 は1つのラインで六畳分できるので、他のわらと混ざり合わないようにするのは大変でしたね。
ーなるほど。
須賀 どんなものができるか、楽しみながらやりましたよ。今回、収穫した後に、そのままビルの上で吊るして乾燥していただいたのを持ってきていただいたんですが、乾燥がよかったので、そこからわらの中で縦横どちらに並べるのがいいかの作業に入れました。どんなわらでも乾燥がうまくいっていて、長ささえあれば畳床はできます。それを縦横で組み合わせて、製品を作ってい く。量が多ければもっとよかったですね、一面に敷き詰めるくらいできればなと思いました。
いつも、もっともっといいものをと思ってやっています。
ー今回、畳床の裏に「シュロの皮のシート」を貼ってくださったとお聞きしました。
須賀 神社仏閣に納める有職の最高級の畳につけるものです。そういう畳はなかなかないですけ どね。今回、特別な畳ということでつけてみようと思いました。
ー今後、白鶴酒造資料館で展示され、多くの方に楽しんでいただくものになると思います。
須賀 どなたが乗っても、畳自体がもつあたたかさが伝わればなと思っています。ただ単に硬いだけでは意味がない。畳の持つ感触を味わっていただきたいなと思います。
ー畳の感触にはこだわって作っていらっしゃる。
須賀 なかなかうまくできないですよね。天然素材だからそれぞれ違う。いつも、もっともっといいものをと思って、考えながらやっています。それも楽しみの一つです。スタッフと「ああじゃない、こうじゃない」と言いながら。たまに配達先とかでいいものがあると、一枚もらってきて研究してます。まだまだ上手な方はいらっしゃいますから。
須賀利三商店
創業70年。現在、3代目。埼玉県熊谷市にて畳の製造及び施工、畳床の製造、新畳張り替えなど を行う。
(須賀利三商店ホームページ)