特別企画インタビュー

日本酒と畳。日常的でもあり、神仏に近づくところにあるものでもある。ー 酒米・白鶴錦の稲わらで畳をつくる。インタビュー③ ー

聞き手・文:山本しのぶ

東京・銀座にある白鶴ビル。
その屋上で2007年から、酒米である白鶴錦を育てる「白鶴銀座天空農園」という屋上緑化プロジェクトが続いています。

今回、2020年秋に収穫された白鶴錦の稲わらを使って、神戸にある白鶴酒造資料館に展示する置き畳を作るプロジェクトが実施されました。

日本酒と畳が出会うとき、そこにどんな思いが生まれたのか。

一枚の畳にまつわるストーリーをプロジェクトにご協力いただいたみなさまにお聞きしました。

プロジェクト全体 特別企画:酒米・白鶴錦の稲わらで畳をつくる。

インタビュー
1.(白鶴錦栽培)役立てられて、大事に扱っていただけてありがたいです。
白鶴銀座天空農園 山田さん・福本さん、白鶴酒造広報 大岡さん

2.(畳床製作)どなたが乗っても畳自体のあたたかさを感じていただけるように。
須賀利三商店 須賀茂春前社長

3.(畳製作)日本酒と畳。日常的でもあり、神仏に近づくところにあるものでもある。
岡田畳本店 岡田暁夫社長

白鶴錦の畳床を使って畳を製作した岡田畳本店 岡田暁夫社長へのインタビュー

ほとんど手縫いなんですよ、今回仕上げてる畳って。

ー第一印象で、とてもきれいな畳だと感じました。

岡田さん(以下、敬称略) 今回、久々に針を持ちました。普段作っている畳って、97%は機械縫いなんです。でも、今回は、表面のござを縫いとめている部分も、畳のヘリも一針一針縫ってます。あと、今回は頭板(かしらいた)というヒノキの板を型崩れしないように入れてます。それが入ってるのは最高級品。その板を留めるのも手作業です。ただ、縫ってるとこは折り返しちゃうし、頭板も畳が仕上がると見えなくなっちゃうんです。職人は普段はこういうこと言わないですけど。

ーあえて手縫いでされようと思った理由はありますか。

岡田 機械でできないことはないかもしれないけど、昔ながらのやり方というのを思って自然に手縫いでしてました。それから、機械縫いって畳の脇にどうしても縫った糸が見えちゃうんですよ。でも、手縫いだと、それを隠しながら、側面に糸がかからないように細工ができるんです。そういう意匠的なところからも手縫いでしています。

ーなるほど。以前、畳屋さんに要望を伝えて、リビングで使う置き畳をすべて天然素材で作っていただいたことがあるんです。マンションの置き畳をすべて天然素材でって湿気とかの問題もあるから普通はしないってそのときお聞きして。畳屋さんが見えないところでたくさん工夫してくださったんだろうなと、お聞きしながら改めて感じました。

岡田 それはいい経験をされましたね。普通の畳であれば表面の部分だけ見られるんですけど、今回の畳は側面からすべて人に見られることを意識しながら縫っています。いつもは指導するような立場ですけど、改めて畳って奥が深くて難しいと感じました。真剣に向き合った時間でした。

神事に使うような有職の畳、だけど乗ったときの心地よさを味わってほしい。

ー今回はどういう感覚でこのプロジェクトに携わられましたか。

岡田 初めにお伺いした時に、白鶴さんで酒造りに使用する道具をこの畳の上に並べたりすることも考えてますと聞いたんです。道具がなければ仕事にならない、だから、道具を置いていただけるのであれば、大事な道具をそこに崇めるようなものでないとと思ったんです。だから、やっぱり有職(ゆうそく)の畳なんだろうなって。神前に供えるような、そんなイメージ。

ー日本酒自体が、神様に供えるものですもんね。

岡田 そうなんです。ただ、そうは言いながらも、あんまりそういうふうにガチガチになってしまうのも違う。そういう有職の部分を持ちながら、どんどん踏んでいただいて、昔ながらの本畳ってこんなに気持ちいいんだよっていうのも伝えるものにしたいと。

ー儀礼的な部分と使って気持ちいいという部分と。

岡田 一枚の畳ですけど、その両方を備えられればなと思ったんです。せっかく銀座のビルの上で育った稲わらで作った畳ですからね。多くの人に楽しんでいただけるようなものになればと思います。

ー出来上がるまでに大変だったことはありますか。

岡田 一つの答えを出すのに、その答えの出し方は何通りもあると思うんですけど、もっとこうすればとか、こういうふうにしたらもっときれいにできるだろうなとか試行錯誤しましたし、仕上がった後に直したところもあります。出来上がってほっとしたのと、もうちょっとなんとかなるかなというのと両方。今の自分でできる技量としてはこれくらいかなっていうある程度の達成感はありました。

畳の歴史的なところもこの畳を通して知っていただければ。

ーこのヘリもとてもきれいだなと思いました。

岡田 高麗縁(こうらいべり)というヘリです。畳のヘリには意味があって、例えば天皇・上皇・神仏には繧繝縁(うんげんべり)を使う、その次の位の人には高麗縁を使っていいですよというのが有職故実書の天人藻屑(あまのもくず)という書物にあるんです。いま、高麗縁は、お寺さんの本堂や旧家の床の間で見られます。床の間って座敷から一段上がった、特別な空間。そこに高麗縁を使うんです。そういう畳の歴史的なところも、この畳を通して知っていただければ。

ー日常的でありながら、神仏に近づく場面で出てくる。そういうところも日本酒とつながりますね。

岡田 はい、そういうイメージを持って作っています。しきたりに則ったものではあるものの、近寄り難いものではなくて、普通にごろっとしていただいたりね。座った方や目にしていただいた方と畳を通して見えない会話をするような、何かしら感じていただけるものがあれば、ああよかったなってなると思います。

※有職畳:宮中に由来する畳。神社や寺社に特別な調度品として受け継がれている。


岡田畳本店

創業明治16年。埼玉県川越市にて、畳の製造、販売、施工、畳および関連製品の企画、コンサルティング、取り扱いを行う。
(岡田畳本店ホームページはこちらから

執筆者プロフィール

山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
山本しのぶ(神戸市在住・1982年生まれ)
夫・息子と三人暮らし。作業療法士の資格を持ち、その人らしい暮らしや生き方をサポートをしていきたいと考えている。普段はのんびりしているが、気になることにはどんどん突っ込んでいく。食べることや手仕事をすること、旅行に行くことが好き。