日本酒好きな大人たちの「若者だった頃」。

欲を満たすために飲む。 ~週末トレイルランナーの場合〜

文:いしづかたかこ 写真:川本まい

いつからが「大人」なのか。その定義はいつまで経っても難しいけど、敬意を込めてそう呼びたくなる人は確かにいる。そんな「大人」で日本酒を愛する方たちは、どんな若者だったのだろう。お酒も仕事も恋も、しょっぱいも甘いも。全部含めて「若者だったころ」、聞いてみました。

加藤伸一さん
六甲山縦走や100km走等々、毎週末のようにアクティブに身体を動かして、月曜日からは爽やかな顔でなりわいカンパニーの本拠地「コミューン」に訪れる人を出迎える。
日本酒好きが高じて、灘の日本酒学校に通ったり、毎日SNSにアップしていたこともある。日本酒好きは今も健在で、趣味のトレイルランニングの大会へ行くたびに地酒を買い集めている。

力あり余る夜は。

若いころは、雑誌の取材を受けるくらいのチェッカーズのような派手な恰好をしていました。劇団に入り、著名な人たちと深夜番組に出たことも。10代までのいたって平均的だった自分を変えたくて、とにかくいろいろしましたね。体育会系だったんで、エネルギーの塊でした。遅くまで稽古してもまだ騒ぎたりない。そんな夜は、劇団の仲間たちと飲み明かしていました。よくあるチェーン店の飲み屋で、いつものビール。唐揚げやポテトを食べて、ひたすら飲んで、バカ騒ぎ。安くお腹を満たせればそれでいい。朝まで飲み明かすこともざらにありましたね。

酒も人生も憧れでできている。

よく身近な人には「頑固者」と言われるんですけど、基本的にできるだけやりたくないことはしない。”なにがしたいか”で動いています。そのほうが居心地がいいでしょ。中でも大切なのは、”かっこよくある”こと。

仕事し始めのころは、仕事ができる人、当たり前のことが当たり前にできる人、高倉健みたいに黙って背中で語れる男……そんな人にあこがれて、少しでも実際の年齢より上に見られたくて背伸びしていましたね。お酒を飲むのも基本的にかっこいいから飲んでいる気がします。僕が思うかっこいいオトナは、ウィスキーか日本酒を飲んでるイメージ。けれど、氷を鳴らしながら飲むウィスキーは映画の中っぽくて気恥ずかしいかったんです。どちらかというと、流行りの日本酒のほうがかっこよく見えました。それに、会社にいる、日本酒好きで仕事ができて自分の意見をはっきり言える美人な先輩もまたかっこよかったんです。泥酔する僕を「加藤くん、ほら!帰るよ!!」とタクシーに詰め込んでくれたりもして。

味はわかっていなかったかも。

ようやく飲んだ憧れの日本酒は思っていた以上においしかったですね。何を飲んだか覚えていないんですけど、子どものころに親父が飲んでいたベタベタする日本酒とは違いました。それまで慣れ親しんだビールとも違って、フワッと酔えるのが心地よかったです。すっかり日本酒の虜になりましたね。いま思えば、あのころはもっぱら『日本酒を飲んでいる自分がかっこいい…』と思って飲んでいたので味はわかっていなかったでしょうね。とはいっても、それ以来、親しい人と飲むときは必ず日本酒です。日本酒ってね、ゆっくり飲めるから腹を割って話すのにちょうどいいんですよ。