文と画像制作:桂 知秋
白鶴酒造さんから聞いた、「甲南大学に日本酒研究会があるんです」の一言。若者の日本酒離れが話題になることが多いのに、大学生の研究会?飲みサークルじゃないの?どうして日本酒?若者の日本酒離れって本当なの?たくさんのハテナが頭に浮かぶ。
そこで、オンライン飲み会をしませんか?とお誘いして、DEMOくらし編集部員たちが、訊いてみたいことを、好きなだけ訊いてみました。お話をしていくうちに感じた編集部桂の膨らんだ妄想コラムとともにお届けします。
飲み会メンバー
《甲南大学日本酒研究会》
山崎友輔さん:代表。日本三大酒処の広島県西条市出身。一人暮らしの家には日本酒が60本。菅虹太さん:発足メンバーの一人。岡山県出身。手作りのアテを用意して参加。森澤綾音さん:兵庫県西宮市出身。お酒を誰かと語りたくて入部したばかりの三回生。(2020年8月取材当時)
《DEMOくらし編集部》
大森ちはる:現在は灘五郷近くに在住。「まる」をロックで飲むのにはまり中。やすかわのりこ:兵庫県三木市出身。白鶴酒造さんの蔵開きで取材した人数、20組以上。桂知秋:兵庫県神戸市出身。知識はないけど楽しそうに呑むから、あだ名は飲兵衛。
気がつけば日本酒が身体に染み込んでいた。
桂:みなさん20代で、飲酒をスタートしたばかり。そんな中、お酒の中でもなぜ日本酒なのかな?というのが気になるところです。
森澤:私は西宮生まれ、西宮育ちで、家の近くに宮水を汲める場所があるんです。西宮は、お水が美味しいところで、お酒も美味しいところで、日本酒は身近な存在だったんですよね。
山崎:僕は実家が広島の西条、酒の街で育ちまして。街を出てわかったのは、西条が異質な街だってことでした。小学校から教育にお酒が入ってるんですよ。毎週、酒蔵見学とかがあって、杜氏の方と話したり、室(むろ)に入らせてもらったりしたりして。僕にとってはお酒を醸している時の匂いが原風景なんです。
だから大学で灘に出て来て、冬に白鶴酒造さんの前を通ったとき、懐かしい!ってなったくらいです。
編集部桂談:
風景、香り、季節、感情、が重なり合うからこそ。
広島の西条は、兵庫の灘、 京都の伏見と並んで 「日本三大名醸地」。毎年秋には20万人の人出で賑わう酒まつりもある。
ちなみに私が西条を知ったのは、映画「恋のしずく」(2018年公開、川栄李奈主演)。日本酒が苦手でワイン醸造の勉強がしたかった女子大生が、意に沿わず西条の酒蔵に研修に来るお話。
アマゾンプライムで日本酒を題材にしたお話だし、と軽い気持ちで見始めたけれど、淡い恋も日本酒造りのウンチクも盛り沢山で、思った以上に見所たくさんの映画だった。けれど、なぜか私の心に残っているのは、酒蔵と民家が直近に迫る街並みと、その空を酒蔵から出た蒸気が覆う、たった5秒くらいのシーン。行ったことはないけれど、お酒の香りが漂ってきそうな街だなあ、と印象的で。
だから山崎さんのこのセリフを聞いたときに、あの空の下で育ったら、大袈裟でなくそうなるのかもなあと妙に納得してしまいました。
でも私が育ったニュータウンの、近くの製パン工場から流れてくるとにかく甘いパンの香りでは、こうはならない。白黒の壁と赤煉瓦の煙突の酒蔵が点在する街並み、日本酒とお米の豊かな香り、その季節ならではの空気、その時に感じた気持ち、、、いろんなものが重なり合って、身体に染み込んでいくんですね、きっと。
「おまえ、そんな表情するんや!」
大森:でもそこから研究会を立ち上げるにはどういう経緯が?
山崎:大学に入って、広島出身で日本酒好きの助教授と日本酒について話すうちに、いつか研究会をつくろうと思うようになったんですよね。たまたま酒好きの仲間に出会えたことで、大学に申請、ようやく2020年1月31日に設立できました。
でもすぐにコロナで自粛期間になっちゃって。イベント参加などできなかったのは残念でしたが、その期間に、ツイッターを介して、白鶴酒造さんの研究者とつながったり、あとは東京農業大学とか、横浜国立大、石川、など15大学くらいの全国の日本酒研究会代表とオンライン飲み会をして思わぬ拡がりができたりはしました。
安川:その時期、オンライン飲み会はぐんと広まった感じがします。実際どんな話をするの?
山崎:この間は、誰かが辛口ってなんなんやろう、ってぼそっといったんですよ。それで辛口について朝まで7時間くらい話し込んじゃいました。みんな研究会の代表やってるくらいだから、日本酒のことならどれだけでも語りたいんじゃないかな。
菅:そんな代表のもとに自然と集まってきたのが今の7名のメンバーなんですよね。
桂:代表はもちろん、みなさん日本酒を楽しんでいるのが今画面から少し見えている日本酒とアテでも伝わりますよ。
3人それぞれの画面前風景。「盛り付けはいつもよりちょっと頑張ったかも」と菅さん。左から山崎さん、菅さん、森澤さん。
菅:僕は小さい頃から、うちの母が酒粕からつくる甘酒がすごい好きで。だからお酒の風味がもともと好きだったけど、特に日本酒は、漬物とか一緒にあわせるもので風味が違うなって気がついてハマったんです。
山崎:そうそう!日本酒は、いろんな顔がありすぎて、おまえそんな顔もってるんや、そんな表情するんや!って思っちゃうんですよね。
編集部桂談:
いつも美味しい、わけじゃない。
「日本酒は合わせる料理によって想像を超える美味しさを体験できることがあります」とおっしゃるのは白鶴酒造広報部植田さん。100種類以上の料理を研究した白鶴独自のセオリー まであるとか。さすがです。
私自身はいつまで経っても製法などを深堀できない性格だから(こんな企画したくらいですから)、いつも行き当たりばったりだけど、「合わせる料理で想像を超える美味しさ」は感覚的に記憶している。
あれは何年か前に伺った地域食材をメインにしたイタリアンのお店。白やら赤やらワインをどんどん注文しながら前菜や魚料理などコースが進んでいく中、最後の一皿、繊細に味付けされた牛肉料理にシェフが勧めてくれたのは日本酒。ワインと日本酒をちゃんぽんして大丈夫かな、と心配が頭をよぎるも、シェフが酒蔵に通って惚れ込んだというその日本酒をいただくことにした私は、まあ見事にやられてしまった。ちゃんぽんじゃなくて、その味に。こんな日本酒呑んだことない、と本当に思ったことを興奮気味にシェフに伝え、私にしては珍しく銘柄の名前もしっかりメモさせてもらって帰った。
そのお酒に再会できたのは数ヶ月後、ふらりと入った酒屋。もう嬉しくって、一緒にいた人にもあの時の感動を話したくらい。そして家で開けて飲んだ時、あのレストランでの「合わせる料理で想像を超える美味しさ」のすごさを実感した。いや、あの味はなんだったの?と言いたくなるくらい、その日本酒とあの一皿はいい出会いだったんだろうなと思う。そして、こういう時もあるからやっぱりおもしろい。日本酒も料理も人生も。