日本酒×テクノロジー 【酔う】

アルコール検知器はなにをもたらしたのか。ー神姫バス運転士にきく、「お酒」と「仕事」ー

文: 山本しのぶ 写真:川本まい

飲酒運転をなくす仕組みの一つとして、アルコール検知器がある。事業用自動車の運転者の点呼において、運転者の酒気帯びの有無を確認する際にアルコール検知器の使用が義務化されたのが、2011年(※)。バス会社では以前から任意で使用していたというが、義務化されてから実は、まだ10年ちょっと。アルコール検知器が義務化されたことで、現場ではどんな変化が起こったのだろうか。バス乗務員と、アルコール検知器の関係性とは。神姫バスの社員、4名にきいた。

それぞれの方にとっての「変化」
1.「自分の感覚で飲むということができなくなったかもしれない」藤井隆展さん(バス事業部)
2.「計算しながら飲むのは大変だなぁというのはありましたね」稲垣晴彦さん(姫路営業所)
3.「安心感を得る、お守りみたいなものかもしれない」小田繁実さん(バス事業部安全推進課)
4.「飲まない言い訳にもなりました」小森亮介さん(総務部)

―アルコール検知器が義務化されて、前後でどんな変化がありましたか?

厳しくなったという思いがありました。それまで、自分の感覚でこれくらいまでは大丈夫というのがあったけど、義務化をきっかけにアルコールに対する意識が変わってきましたね。自分の感覚で飲むということができなくなったと言えるかもしれない。道路交通法上は、呼気中0.15mg/lのアルコール濃度が検出されると酒気帯び運転とされてるんですが、バス乗務員の場合は0.00 mg/lでないとだめ、というのが国の規則なんです(*)。計算しながら飲むことになるので、勤務の前日はほとんど飲まないように自分で決めてましたね。

(*乗務員の場合、0.00mg/lでないと酒気を帯びた状態として乗務禁止となる)

―いちばん気兼ねなく飲める瞬間は?

旅行の時ですね。知らない土地で美味しいもの食べて飲むっていうその瞬間が一番楽しいお酒やと思いますね。旅行に行くことで、お酒との出会いを楽しんでいるようなところがありますね。

―よく飲むお酒は?

自分のこだわりがあって、新年最初に飲むお酒は日本酒って決めてるんです。普段は焼酎が多いですね。自分で濃さも調整できますしね。

―印象深いお酒の場面は?

コロナが始まる前に、うちの会社主催のチャータークルーズツアーがあったんですけども、そこで1日中飲みっぱなしというのを経験して。朝から晩まで、夜中も目が覚めたらお酒っていう。その時にすごく美味しいワインをいただいたのをきっかけにワインにはまって、いろんなところのワインを買い集めてましたね。船の旅も初めてでしたし、そこまで飲むのも人生でそれが最初で最後だろうなという。

―あなたにとってバス運転士という仕事は?

以前はトラック運転手だったんです。トラックに乗ってあちこち行ってるときに、観光バスの運転士とすれ違ってて。こちらが荷物を運び入れているときに、ネクタイ締めて白い手袋してガイドさんもいて、楽しそうに仕事してていいなぁという不純な動機でバス運転士になって。なってみたら、観光バスなんか経験積まないと乗れないし、クレームはあるしで挫折もして。でも、辛抱しているうちに貸切や夜行バスも乗れるようになって結果的にはよかったなと思っています。

―仕事で大事にしていることは?

受けた仕事は必ずやり遂げるというのは大事にしてました。いまは管理職として、現場の困りごとを解決していきたいなと思っていますね。

―アルコール検知器が義務化されて、前後でどんな変化がありましたか?

計算しながら飲むということに、正直、最初は大変だったことを覚えていますね。それまでは、⾃分の感覚で「まだいける」というのがあったけど。お酒の種類や量によって、アルコールが分解されるのもこれだけかかるってことを覚えたことで、好きなお酒も、ここで抑えておかんと次の⽇に響くからって、自分に言い聞かせている。

休みの⽇に、誰かが体調悪いからって出勤要請を受けることもあり、そういう時に個⼈持ちのアルコール検知器(*)で確認することで、安⼼して出勤できる、という⾯もありますね。

(*神姫バスでは携帯用アルコール検知器を持ちたいというバス乗務員のために、購入費用の半分を会社が負担している)

―いちばん気兼ねなく飲める瞬間は?

休みの日の前ですね。ただ、ひょっとしたら出勤要請があるかもというのはあるので、もしかしたらそういう日はないのかも。

―よく飲むお酒は?

勤務の前の日は焼酎。休みの前の日は日本酒やビールも飲みたくなりますね。

―印象深いお酒の場面は?

コロナ前は営業所単位で旅行に行っていて、そういう時の宴会かな。本音が言えたりね、酒飲んで羽目を外す者もおるしね。今の時代、お酒の場が避けられるようなところもある。世間が難しくなってるんで、飲み方も難しいな、と思いますね。

―あなたにとってバス運転士という仕事は?

「職人」なんです、バス運転士って。ただ愛想良くのほほんと運転しているのではなく、安全が⼀番のサービスだと考えてます。交通状況、天候、到着時間、⾞外・⾞内の様⼦、たくさんのことを頭に⼊れて運転しています。

―仕事で大事にしていることは?

とにかく安全ですね。何年運転士をしても、毎日緊張します。それを忘れた時に、事故は起きると思っています。

―アルコール検知器が義務化されて、前後でどんな変化がありましたか?

以前も、携帯⽤の検知器を個⼈持ちしていた人はいたんです。でも、あまり精度のいいものではなく、飲みに⾏った時にやっても反応したりしなかったりと、信用できなかった。

義務化以降は、携帯用の検知器についても、事務所のアルコール検知器と同じくらい精度の高いものが購入できるようになったので、多くの⼈が個人で持つようになりました。出勤時にゼロなのが当たり前だけど、アルコール検知器があることで安心感を得ている。お守りみたいなものかもしれないですね

―いちばん気兼ねなく飲める瞬間は?

休みの日の前ですかね。明日何もなくて、完全に昼間でも寝ておけるというような。そういうときは気持ち的にも嬉しいですね。

―よく飲むお酒は?

焼酎ですね。自分の好きなように割って飲むことができるので。

―印象深いお酒の場面は?

やはり職員旅行の宴会とか、趣味の合うもん同士の交流とか。我を忘れて、という表現が正しいかわからないんですけど、馬鹿騒ぎして。そういうのが一番楽しかったんじゃないかな。飲まない人でも、やっぱりその酒の場の雰囲気が好きっていうんで参加する人もいるし。がしゃがしゃしたような感じでなく、みんなまるう、穏やかに会話するし、ふざけとる人もいっぱいおるし。やっぱり、そういうお酒の場があって、会話やお互いの意見交換をして仲良くなって繋がりができていくような気はします。今はお酒の場が少ないんで寂しいなっていうのは、みんな思ってることやと思う。

―あなたにとってバス運転士という仕事は?

自分のこだわりのあるひとは、特に昔は多かったですね。自分の中では、電車のような加減速がスムーズで、静かな車内がいいなと思って運転してました。朝が早かったり夜が遅かったりと不規則な仕事だけど、特に苦はなかったですね。

―仕事で大事にしていることは?

乗っている人のことを意識すること。緊張感がありますが、そこが大変なところでもありこだわりでもあります。

―アルコール検知器が義務化されて、前後でどんな変化がありましたか?

観光バスの営業所で運行管理していたときは、私も出勤時にアルコール検知器を使ってました。私自身は、平日は飲まないんですよ。そこまで強くないのもあって。ただ得意先とかと夜に飲んで次の日に出勤するときは、当然、量や時間は守っているけれどもし体に残っていたらと気になることはありましたね。また、アルコール検知器が周知されてからは、飲まない言い訳にもできるというのはありました。「明日仕事で、アルコール出るとあかんので」とちゃんとした言い訳になるというか。飲まされてしんどいような場面も、検知器が頭に残っていればお互いに歯止めにもなるし。結果的に、体の負担も減るかもしれないという、いい意味で捉えたらいいんじゃないと思ってますね。

―いちばん気兼ねなく飲める瞬間は?

一仕事終わって、会社内とか得意先とかと一緒に行くときのお酒とか、出張帰りの居酒屋でのお酒とか。家で飲むよりも、外で飲む方がよく飲めるのはなんでなんでしょうね。

―よく飲むお酒は?

1杯目はビール、2杯目以降は焼酎ですかね。最近は芋焼酎。旅行好きなので、その土地土地の地酒は買いますね。

―印象深いお酒の場面は?

以前に姫路税務署主催の日本酒品評会に会社から参加したことがあって。ビールと日本酒の利き酒大会があったのでやってみたら、よく飲んでるビールは外して、弱いからあんまり飲まない日本酒は全問正解みたいなことはありましたね。

―あなたにとってバス運転士という仕事は?

私は運転士ではありませんが、神姫バスに入社してからは、狭い道とかでバスが来たら譲るようになりましたね。これだけ大きな車体を運転するというのは、大変なことやと思いますね。

―仕事で大事にしていることは?

初めて観光バスのツアーに乗務したときに、2日目、参加者の方に「ネクタイ変わってるね」と気づいてもらって。それ以来、泊まりであっても毎日ネクタイを変えることは一つこだわりにしています。今日お会いする方に対する自分なりの心遣いみたいなものですかね。

インタビューを終えて

以前、とある友⼈の⾔葉に驚いたことがある。彼⼥は「ああ、頭が痛い。ちょっと飲もうかな」と冷蔵庫からビールを取り出した。

またある⽇(まだソーシャルディスタンスという⾔葉が世の中になかった頃)、夫の実家に⾏っているときに、夫が突然⾼熱を出したことがあった。⾷事の席で、夫はお酒を⼿にし、「アルコール消毒しとく」と⾔いながら飲む。義⺟も「アルコール消毒するために飲んどき」と⾔う。

お酒を語るとき、味や⾷事、産地や製法で語ることは多いが、「酔う」ことそのものが語られることは少ない。そのひとがどう「酔って」いるか、誰にも分からないというのもあるからだろう。それが頭痛を和らげたり⾼熱を和らげたりすると感じているひとたちがいて、その感覚がまったく分からなかった私がいる。今回のインタビューでも、外で飲む⽅が酔いにくいとか、⽇本酒より焼酎の⽅が残りにくい感じという⾔葉もあった。ちなみに私は、⽇本酒を飲んだ時の酔いは好きだが、ビールを飲んだ時の酔いは苦⼿だ。「酔って楽しい」あるいは「酔ってしんどい」以上の、もっと個⼈的な体感が「酔う」にはあるようだ。

アルコール検知器は、個⼈と社会との接点に存在する。その⼈が酔っているかどうかが、個⼈の体感を超えて厳密に数値化されるものでもある。今回の取材の際、私も体験させていただいたが、息を吹きかけてから 0.00 という数字が表⽰されるまでの⼀瞬に、体感を機械に委ねるような緊張感が⾛ったことを覚えている。

(※)飲酒運転に対する法規制は、悲惨な事故の発生を契機としながら、厳格化されてきた。発生件数でいうと、2011年に起こった飲酒運転による交通事故は5,030件(全発生件数:655,967件)。2021年は2,198件(同:284,264件)。数は減っている。しかし、すべての交通事故に占める飲酒運転の割合は、この10年、0.8%前後を推移し続け、決してなくなってはいない(警察庁サイト:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html)。