終わらないもんね、お伊勢さんがある限り。〜誘われて、お伊勢参り。白鷹三宅商店の巻〜

1ページ目:おひざ元にいるということ。伝えるために言っておくこと、してあげること。
2ページ目:初めて出会った人に自分の持つ時間を費やして、『させていただく』という気持ち。

つながりすぎ、一体どこまで続くのか。

編集部あずみ: 今日は私達、ゴザと柄杓を携えるという昔のおかげ参りのスタイルでやってきたんですよ。そしたら、いろんな方に声をかけていただいて。

はいはい。と朗らかに笑いながら、おかみさんは見慣れた様子で。

おかみさん: 時々そのスタイルで参られる方がおられますよ。実は、昔のお伊勢参りの様に歩いてくる奈良大学の学生さんの受け入れをしていたんですよ。せっかくだから私達も昔のスタイルで施行じゃないですけど、来られた時はおふるまいさせていただいてたんです。伊勢の人間もたまに途中の辻から参加していましたよ。

編集部あずみ: もしかして、奈良大学の鎌田先生のゼミの学生さんたちですか? 今回、鎌田先生に電話でそのお話を聞かせて頂いてから来たんですよ!まさかここで出会えるとは!それにしても、皆さん本当に伝統を守ってくださっているのがすごい! 元宮大工の川村さんに内宮を案内していただいて、全て回らせていただきました。建物の作りも教えてくださって。

おかみさん: 何か伝えていきたい気持ちをお持ちだと思うんです。一回きりのお客さんではないですから。毎年春に来られる方とか、自分たちの子どもの成長を報告する方とか。いろんな思いや寂しさ、心が緩むというか、参拝することでお互いの気持ちが柔らかくなるんでしょうね。幸せですよね。
祖母なんかうちの娘を連れて歩いていると、おばあちゃんが『手をつながせて』くれと。訊くと近くに孫がいない。それには祖母も嬉しかったし娘も喜んだようで。逆に私たちがもらえた感じというか、誰もが嫌な気持ちがないというか。角を取ってくれるんじゃないですか、まるくなって帰っていく。
だって、あの中に入ると車の音は、ほとんど聞こえないでしょ? すごく静かに向き合える場所です。内宮は、通常で40分。全部回ったら2時間近くかかりますね。

川村さん案内の元宮大工の参拝ルートの道中は、まるで何かに包まれて守られているみたいで。全てを回り終えて外へ出た瞬間、パチンと弾ける音がして夢から覚めるような不思議な感覚だった。初めて出会った人に自分の持つ時間を費やして、一度お別れして再び取材についてきてくださった川村さんの心根。おかみさんと同じ心の在り方を持つ、まだ名前も顔も知らない方々の『させていただく』という、まん丸できりっとした気持ちが、そのまんま『あの場所』に存在しているんだな。

おかみさん: そんな時に感じるんです。白の上下で身を正してご奉仕させてもらうって、普段の生活では、中々機会が無いじゃないですか。それを自然にやらせていただけるというのはありがたいです。本当にいいところなんでね、ぜひ移住も考えていただいて(笑)

おかみさんとの楽しいおしゃべりともここでお別れ。その思いも、ちゃんと持って帰ります。本当にありがとうございました。おかげさまで明日も面白い一日になりそうです。

あぁ、またいってしまいそう、「ただいま」って。

今回泊まった川埼は、新しく移住された方が古民家をリノベーションしてお店をオープンしているという、おかみさんの情報を基に晩御飯は蔵を改装したシャレオツなお店でいただきました。壁には偶然にも、私たちの日頃の編集力を試すようなポスターが貼ってあり、『編集長ならこう言うシリーズ』と題して大いに楽しみました。

それにしても、導かれている? うん? 吐き出されている? そうともとれる。少なくとも私に関しては、半分は軟派なんだもの、私たちのオールドファッションお伊勢参り。でもね、そんな私たちに、とてもやさしい日本語みたいに、心と体で感じさせて伝えようとしてくれたのかなって。

私が初めて伊勢神宮にお参りに来たとき、お礼を言いに来たんです。だから、祝詞を読んでいただいて。式が終わって外に出たときに、突然、晴れた空から雨がパラパラって。とてもきれいな雨だったから、なんだかそれまでのすべてが報われたような、救われたような気がしたんだ。理屈とかそういうのは、私あんまり得意じゃないから、私を納得させるには充分だった。きっと、また、ここに来ると思う。理由は、解からないけど戻ってくるって。その時はまた、三宅商店でキュッとやるつもり。

さぁて、新しい朝がやってきた。もちろん希望で満ち溢れてます。『バカだな』。んん?『バカよねー』。背後から聞きなれぬ声。背中には、丸めて縛ったゴザと柄杓。んなこた言われなくてもわかってるって。それでも希望の朝なんだ。


【編集後記】
お話をもう一つ。出来上がった原稿の内容に誤りがないか、「白鷹三宅商店」のおかみさんに確認をお願いした際、大きく言うと修正点(誤解していた点)が二つありました。

ひとつは、御料酒とは、神様のためだけのお酒であるということ。私達がいただいたのは、特別限定酒。
もうひとつは、本文の最初の方にある「白鷹が御命を受けてらせていただいている」。当初私は「白鷹がを受けてらせいただいている」としていたのです。これは、おかみさんの「させていただいている」という精神のあらわれだと痛感した私なのでした。